恥を照らす蛾

 金粉をまとう蛾の精霊は、恥を食べる代わりに、その原因を夜明けまで誰の目にも見える形にする。

 隠してきたものほど、明るく浮かび上がる。

 王立工房の授賞式で、ハザラは長い手袋を外せずにいた。

 壇上では師匠のベルガが、新作の星織り布を掲げている。半年かけて図案を描き、糸の配合を考えたのはハザラだった。だが布の端に縫われた名は、師匠のものだ。

「弟子の仕事は師の仕事だ」

 抗議した夜、ベルガは彼女の両手首へ契約印を焼いた。

「騒げば、盗みを働いたのはおまえだと証言する」

 印は命令に逆らうたび黒く痛み、師匠の言葉を復唱させた。

 誰かに見せればよかった。

 けれど、認められたくて契約へ署名した自分まで笑われる気がした。才能があったのに利用されたことも、逃げられなかったことも、すべて恥だった。

 袖の中で、金色の蛾が囁く。

「その恥を食べれば、印が何をされた痕か、全員に見せてやる」

「印だけ?」

「おまえが隠した理由も、泣いた夜も、助けを求められなかった声も。恥は全部つながっている」

 授賞式には組合員も、昔の同僚も、ハザラの母もいる。

 真実が見えれば、師匠の罪は明らかになる。だが同時に、自分の弱さだと思って隠した時間まで広場へ晒される。

 ベルガが壇上から手招きした。

「弟子として、私の栄誉を祝いなさい」

 拍手が起こる。

 ハザラの隣にいた同期の娘が、小声で言った。

「あなたの図案に似ているね」

 疑っている。それでも証拠がなければ、誰も師匠に逆らえない。

 蛾が手袋の縁へ止まった。

「食べるか」

 ハザラは、自分を守っていたのは沈黙ではなく、恥のほうだったと気づいた。

 恥ずかしいから見せない。恥ずかしいから説明しない。

 それを失えば、傷は消えない。むしろ誰の目からも隠せなくなる。

 彼女は壇上へ上がった。

 ベルガが差し出した手を取らず、客席へ向き直る。

「この布を作った手を、お見せします」

 手袋を外した。

 蛾が両手首へ口をつける。

 恥が金粉になって舞い上がった。

 契約印から光の糸が伸び、ベルガの指へつながる。工房で奪われた図案、鍵をかけられた作業室、泣きながら師の名を刺した夜が、光の影絵となって天井へ映った。

 客席が静まり返る。

 母が口を覆い、同期の娘が一歩前へ出た。

 最後の恥が食べられる直前、ハザラは手首を隠したくなった。

 蛾はその衝動まで、甘そうに飲み込んだ。