抽選番号は同じ住所

限定カメラレンズの抽選で、白樺野紗凪は落選した。

ところが発表直後、諸星原環生が六十本を確保したと配信を始めた。

「抽選は情報戦。会社を六十個作って応募しただけ」

当選通知の名義は法人ごとに違うが、所在地はすべて同じレンタル倉庫。代表者の電話番号も環生の一つだけだった。

紗凪はメーカーの販売システム担当で、個人として正規抽選へ参加していた。勤務先の権限を使って自分を当選させることはせず、落選も受け入れていた。

しかし六十件の異常は、監査システムが自動検知した。

法人枠は、業務で使用する会社へ一社一台を販売する制度。登記、事業実態、機材保険を確認した後に当選が確定する。環生の六十社は、同じ日に設立され、事業目的も文章の誤字まで同じ。半数は登記申請中で、実在すらしていなかった。会社印の画像もすべて同じ欠け方をしており、環生が一枚の印影を複製したことまで分かった。

環生は、抽選画面に当選と出た以上、売る義務があると主張した。

規約には〈審査完了前の表示は仮当選〉と明記されている。環生は同意欄へ六十回チェックしていた。

さらに彼は六十本を海外へ転売予約し、“メーカー法人代理店”と表示して前金を受け取っていた。メーカーは商標の不正使用と虚偽申請をサイトへ通報し、決済会社は売上金を保留した。名義を使われた二人からも、応募した覚えがないと連絡が入った。

登記に使われた住所の管理会社も、無断で法人所在地にされたとして契約解除を通知した。

六十件の仮当選はすべて取消し。商品は再抽選へ回される。

紗凪の端末が震えた。再抽選で一台が当選したのだ。彼女は本人確認と支払いを済ませ、受取日時を選んだ。

環生の配信画面には、六十の番号が同時に〈住所審査不一致〉へ変わる様子が映り、視聴者が無言で減っていった。

紗凪の一番号だけが〈当選確定〉へ進んだ瞬間、六十社を作った転売屋は一社分の実態も証明できず、一人として正直に応募した者がレンズを受け取ることになった。