数字ではない道化
横溝凪沙は自分の一を蒔田魁人へ渡し、彼の道化札を受け取った。
納富冬馬が二を握り、驚いた顔をする。
「道化はゼロ扱いだぞ。自分から最下位になったのか」
魁人は一を掲げて笑った。彼は凪沙へ道化を押しつければ、自分より低い者を作れると信じていた。
壁の規則は一つ。
〈全員が一度カードを交換した後、最も小さい数字のカードを持つ一名を処刑する〉
開始時、凪沙は一、冬馬は二、魁人は道化。カード一覧の説明映像では、道化が数字札より下に並べられていた。だが順位表には数値欄がなく、道化の欄だけ笑顔の記号で示されていた。それを誰もゼロとは呼んでいない。そのため二人は「道化=ゼロ」と思った。
だが道化の表面には数字が一つもない。
『序列上、道化は最低位です』
「規則は位の低いカードと言っていない。最も小さい数字のカード」
『道化は便宜上ゼロとして扱います』
「便宜はカードに印刷されていない。判定時に数字認識する、と説明したのはそちら」
残り二分。冬馬は二を魁人の一と交換し、自分が一、魁人が二になる。彼は凪沙の道化がゼロなら安全だと思った。魁人も、二なら処刑を免れる。
終了ベル。天井の画像認識が三枚を読む。
道化――数字なし。
一。
二。
〈数字札の最小値、一。対象、納富冬馬〉
冬馬の顔が凍る。
「道化を数えろ!」
〈数値を検出できません〉
凪沙の首輪は緑へ変わり、魁人の首輪も安全解除される。冬馬だけが赤い拘束に沈む。
主催者が判定を止めようとするが、機械は「数字のあるカード」だけを比較するよう設定されていた。演出上の序列と、処刑条件の計算式が食い違っている。
魁人は一を渡した手を見つめた。
「お前、最初から道化を狙っていたのか」
「数字の勝負から降りられる唯一の札だったから」
凪沙は道化を胸元へ置く。
「ゼロは数字。でも、道化は道化。低く見えるものを、勝手にゼロへ変えたのはあなたたちよ」
出口が開き、笑った道化の顔だけが、数字にできない勝利を見送った。順位表の最下段にいた札が、比較表そのものの外へ抜けた瞬間だった。