文化祭の予備鍵
文化祭の売上金三万円が、蒔田小夜のロッカーから出てきた。
会計責任者の柳瀬克己は、教師が来る前から小夜を囲んでいた。
「やっぱり一人で帳簿を抱えていたのは、抜くためだったんだ」
小夜はクラスの輪へ入れず、準備期間ずっと釣銭数えと清掃を押しつけられていた。克己は彼女の発言を無視し、最後に「協力しない人」と記録した。
小夜は一円のずれも出さないよう、受取時刻と担当者を色の違うペンで記していた。克己はその帳簿を「細かすぎて気持ち悪い」と皆の前で破ろうとし、売上発表のときだけ自分が集計したように読み上げた。今回も、帳簿がなければ袋の違いは誰にも分からなかった。
現金は、紙帯のまま小夜の体操服袋へ入っていた。
「触らないでください」
小夜は教師へ言った。
模擬店の売上金は、偽札と紛失を防ぐため、回収時に紫外線スタンプを押し、袋番号を帳簿へ記す。見つかった紙幣には確かに青い印があった。
克己が勝ち誇る。
「これで言い逃れできないね」
小夜は帳簿を開いた。
「袋番号を見てください」
盗まれたのは《C-14》。ロッカーから出た紙帯は《C-08》だった。C-08は一時間前に銀行の夜間金庫へ入れ、受領端末の記録もある。目の前の紙幣は、同じ印を押した別の現金だった。
教師が確認すると、三万円の中には、売上では使われない新券が連番で混じっていた。
「予備の釣銭です」
小夜が言う。
予備金庫を開けられるのは、担任と文化祭委員長だけ。克己は委員長用の予備鍵を持っていた。
「小夜に頼まれて出した」
克己は答えた。
校内の電子鍵記録では、十八時十二分、小夜のロッカーが予備鍵で開けられている。その時間、小夜は体育館で全校会計の確認を受けていた。廊下のカメラには、克己が体操服袋を抱えてロッカーへ入れる姿が残っていた。
盗まれたC-14は、克己の机の底にテープで貼られて見つかった。
担任は、小夜の前に置かれた反省文用紙を克己へ回した。
「窃盗と虚偽申告として学校と警察へ報告する。柳瀬は委員長解任。最終会計の責任者は、袋番号の違いに気づいた蒔田小夜さんだ」