斬らないスライム攻略

「分裂皇帝は殴るたび倍になるぞ」

「一体でも漏らしたら再統合して全回復」

「月島瑠璃、塩袋持って料理配信?」

月島瑠璃は巨大な透明スライムを前に、剣を腰から外した。

分裂皇帝ジェルムは、受けた攻撃の数だけ同じ強さの個体へ分かれる。斬れば二体、魔法なら着弾数だけ増殖。範囲攻撃で一掃しようとした部隊は、一万体へ増やして撤退した。倒すには全個体を同時に消す必要があり、必要火力は計算不能とされている。

瑠璃が持ってきたのは、食堂で買った粗塩一袋。前夜、彼女は自宅の流しで小型スライムに砂糖、酢、小麦粉まで試し、最後に塩だけが“攻撃”を発生させず水分を抜くと確かめていた。台所は半日使えなくなった。

ボス部屋の床には、過去の挑戦者が残した武器が半分溶けている。皇帝はそれらを取り込み、嘲るように王冠の形へ体を盛り上げた。

「塩でスライムって昔話かよ」

「状態異常耐性、全部無効だぞ」

「待って。塩は毒じゃなくて環境変化判定?」

ジェルムが床を滑り、瑠璃を飲み込もうと口を広げる。

彼女は逃げず、袋の口を歯で切った。透明な体の中では、水分を循環させる青い核がゆっくり脈打っている。

瑠璃は粗塩を一度だけ、頭上へ放った。

白い粒が雨のように降る。皇帝は攻撃を待って誇らしげに体を広げたまま、最初の一粒を受け入れた。分裂条件が光らないことに気づいた時には、表面全体が細かな塩で覆われていた。

攻撃判定は出ない。ダメージ表示もない。ただ、スライムの表面から水が外へ引かれ、巨大な体が見る間に縮んでいく。

分裂しようにも、切断も衝撃も受けていない。

耐性が防ぐ“異常”ではなく、塩分濃度の差による移動。青い核は薄い膜の中で干上がり、最後に小さな硝子玉となって床へ落ちた。

「浸透圧!」

「システムログは環境乾燥、攻撃回数ゼロ」

「一袋三十ゴールドで討伐?」

「高火力より食堂の調味料が正解だったのか……」

瑠璃は硝子玉を拾い、残った塩を小瓶へ戻した。

切り抜きの題名が、投稿から十秒で急上昇一位になる。

【一万回斬るより、塩を一回まいたほうが早かった】