断頭後、五句
処刑人が斧を上げると、セフィルは首台の木へ唇をつけた。
領主ヴォルナスの殺人を見たのは彼だけだ。だが証言の前に偽の窃盗罪で捕らえられ、口封じの断頭刑を言い渡された。傍聴席には姉と、勝ち誇るヴォルナスがいる。
斧に棲む悪魔は、首を落とされたあとも五つの文を話させる。その代わり、一文ごとに顔の部位を一つ奪い、斧の刃へ移す。
「五句で足りるか」
悪魔が問う。
セフィルは頷いた。
斧が落ちた。
世界が回り、籠の藁が頬へ当たる。身体は首台に残り、血を噴いている。それでも意識は澄んでいた。
一つ目の文。
「薬師を刺したのは、領主ヴォルナスだ」
右目が顔から消え、斧の鏡面に開いた。刃の目がヴォルナスを見る。
群衆がどよめく。領主は笑った。
「死者の妄言だ」
二つ目。
「凶器は礼拝室の聖卓、その裏板に隠されている」
左耳が消え、斧の柄に生えた。衛兵が走る。
三つ目。
「刃には領主の血が付いている。薬師が抵抗して掌を切ったからだ」
鼻がなくなり、顔の中央が滑らかになる。礼拝室から短剣が運ばれ、ヴォルナスの古い傷と血痕が一致した。
領主が姉を人質に取り、短剣を喉へ当てる。
「黙れ、次を言えば殺す」
四つ目。
「姉は共犯ではない。脅迫状は私が保管し、靴底に縫ってある」
唇が消えた。それでも声は首の切り口から漏れた。処刑人がセフィルの靴を裂き、領主の印章入りの脅迫状を出す。
衛兵がヴォルナスを囲む。姉は解放された。
あと一文。もう証拠は足りる。使わなければ、片目と顔の輪郭だけは残る。
しかしヴォルナスは叫んだ。
「薬師は禁制の治療をしていた。殺されて当然だ。私がいなくなれば患者も全員処刑される」
姉の背後で、病人たちが震えた。
セフィルは五つ目を使った。
「薬師の患者名簿は偽物で、本物は領主の帳場にあり、治療を受けた第一号はヴォルナス本人だ」
残った左目と眉、頬の凹凸まで、顔という一枚が剥がれて斧へ移った。
帳場から名簿が見つかり、患者たちは罪を免れた。ヴォルナスは自分も禁制治療を受けた証拠に縛られ、連行される。
籠の中で、セフィルの頭はまだ生きていた。
姉が駆け寄り、抱き上げる。そこには目も耳も鼻も口もない、温かな白い球しかない。
「セフィル」と姉は呼んだ。
返事はなかった。
代わりに処刑人の斧が、弟の顔で微笑んだ。五つの文を飲み込んだ悪魔は、新しい唇を動かし、誰にも聞こえない声で自分をセフィルと名乗った。