昨日の日付

 神保賢吾が窓口へ差し出した封筒は、応募期限を一日過ぎていた。

「昨日の消印を押して」

 郵便局員の長船穂波は、今日の日付でしか引き受けられないと答えた。期限後でも配達はできるが、到着や選考は保証できないことも説明する。

「機械の数字を一つ戻すだけだろ」

「消印をさかのぼらせることはできません」

 封筒の宛先は、来春開設される簡易郵便局の受託者選考事務局。神保は地域会社の代表で、窓口運営を請け負う予定だと周囲へ話していた。

「俺が選ばれたら、この局とも付き合いができる。今から恩を売っておいたほうがいい」

「期限後としてお預かりするか、ご返却するかになります」

「融通の利かない職員だな」

 後ろには年金の手続きを待つ老人と、赤ん坊を抱いた女性がいた。神保は列を振り返り、待っている客へ聞こえるように言った。

「こういう人間が窓口にいるから、郵便局は古いんだ。俺なら全員、接客から教え直す」

 穂波は割込みをした神保へ番号札を取るよう頼んだうえで、同じ二つの選択肢を繰り返した。

 神保は封筒をカウンターへ叩きつける。

「責任者を呼べ。昨日受け取ったことにして、内部で処理すれば誰にも分からない」

 列の最後にいた作業着の男性が、前へ出た。切手を一枚買いに来たように見えたが、胸ポケットから身分証を出す。

「誰にも分からない、という点は訂正します」

 男は郵便事業本部の地域統括責任者、平戸孝弥だった。応募先の選考委員も務めている。新しい受託局の候補地域を、自分の足で見て回っていた。

 神保は急に笑顔を作った。

「これは窓口対応の柔軟性を試しただけです。私は不正を求めたわけでは」

「応募要項の第一条件をご存じですか」

 平戸は封筒から見える書類名を確認した。

「法令と業務記録を遵守し、職員へ不正処理を要求しないこと」

 穂波は、今日の日付の受付印を手にしたまま待った。

 平戸は選考事務局へ電話をかけ、神保の会社名と応募番号を告げた。

「倫理要件違反を現認しました。応募資格を取り消してください」