最後のサボりは出席扱い
卒業式の前日、僕らは最後のホームルームをサボった。
教室では担任が一人ずつ名前を呼び、卒業証書の受け取り方を確認している。僕と彼女は屋上の扉の前に座り、開かない鍵を眺めていた。
三年間、何度もここへ来たのに、最後の日だけ鍵が替えられていた。
「生活指導、仕事が遅い」
彼女が言った。
「卒業前日に本気出すなよな」
「私たち対策だったりして」
僕らは一年のころ、昼休みを延長して叱られた。二年では文化祭の準備から逃げた。三年では進路面談の順番を飛ばした。屋上は立入禁止で、僕らにとっては立ち止まり許可区域だった。
「明日、終わるね」
彼女が膝を抱えた。
彼女は県外の大学へ行く。僕は地元に残る。何度も話した事実なのに、その日だけ初めて聞いたように重かった。
「連絡する?」
「するでしょ」
「最初は」
「縁起でもない」
彼女は笑ったが、目を合わせなかった。
教室から名前を呼ぶ声が聞こえた。僕の名前。返事はない。次に彼女の名前。やはり返事はない。
「欠席扱いかな」
「最後まで皆勤逃した」
「元から皆勤じゃない」
僕らは扉に背を預けた。向こう側には屋上がある。フェンス、給水塔、町の空。見えなくても、どこに何があるか分かった。
「鍵が開いたら、何したかった?」
僕が聞くと、彼女は少し考えた。
「別れ話」
「付き合ってないけど」
「だから、友達をやめる話」
胸が縮んだ。
「遠くへ行って、連絡が減って、気まずくなってから終わるの嫌だから。今日、ちゃんと終わらせようと思った」
「勝手だな」
「うん」
僕は立ち上がり、扉のノブを回した。やはり開かない。
「じゃあ却下」
「何が」
「ここ、屋上じゃない。別れ話の場所が違う」
彼女は呆れた顔をした。それから、吹き出した。
そのとき階下から担任が上がってきた。叱られると思ったが、手には古い鍵があった。
「二人とも、返事くらいしろ」
担任は扉を開けた。
「確認は終わった。屋上で写真を撮るぞ。クラス全員待ってる」
扉の向こうに、三十人分の声があった。誰かが僕らを呼び、誰かが「またサボってる」と笑った。
屋上へ出ると、風が強かった。僕らはクラスの真ん中へ押し込まれた。
シャッターが切れる直前、彼女が小声で言った。
「友達、継続で」
「出席扱いなら」
「面倒」
写真の中で、僕らは目を閉じていた。風のせいだ。
卒業後も連絡は減った。気まずい月もあった。それでも、完全には終わらなかった。最後のサボりを、クラス全員に見つけてもらったからかもしれない。