最後の一秒を渡す

葛城カノンはゴール前で、仲間三人へ一秒ずつ手渡した。

《秒数譲渡》

接触した相手へ、残り時間を任意に移せます。

残り時間ゼロの走者は停止します。

攻略隊は全時間を最速の一人へ集める作戦だった。盾役も治癒師も、途中でゼロになって凍りつく。エースだけが百二十秒を持って走る。

カノンの隊も同じだった。仲間から受け取った時間で、彼女だけがゴールへ到達する。

線の前に確認表示が出た。

《団体完走条件:登録者全員が残り時間一秒以上で通過》

説明は開始時からあった。皆、速さの欄しか読まなかった。

背後に三人が停止している。カノンの残りは四秒。

一秒ずつ渡せば、自分には一秒。全員を運ぶ時間はない。

カノンは戻った。

一人目へ一秒。目を覚ました盾役が、二人目を抱えて一歩進む。二人目へ一秒。治癒師が三人目を引く。最後の一秒を斥候へ渡した瞬間、カノン自身が停止した。

三人は相談せず、受け取った一秒を少しずつ回し始めた。手を握るたび、動く者を交代する。四人で一秒を循環させ、数センチずつゴールへ進む。

最後は全員が指先をつなぎ、同時に線を越えた。

《各走者残り時間:0・25秒》

世界記録より十分遅い。それでも団体完走者は彼らだけだった。

《団体タイムアタック達成》

《最少総時間:一秒》

ゴール線の向こうで四人は同時に倒れた。残り〇・二五秒では、一言も話せない。

それでも接触は続いている。誰かの時間がわずかに減るたび、別の誰かが瞬きをする。一秒は四人の間を回り、完全なゼロを作らない。

運営端末は小数点以下の譲渡を想定しておらず、処理を止めた。停止中、四人のタイマーは一つの円として統合される。

再起動後、個人欄は消え、《共同残時間:一秒》だけが表示された。カノンたちはようやく同じ瞬間に息を吐いた。

共同タイマーには所有者欄がない。誰が何秒提供したかも、誰が最速だったかも消えていた。

盾役が四人分の一秒を《息継ぎ》と名づける。カノンは笑い、次の瞬間を誰へ渡すか決めずに、四人で同時に歩き出した。

《残り時間は一人へ集める資源ではありません――最後の一秒を循環させた四人を、全員完走として記録します》