最後の面会
千種響は毎週日曜、拘置所の受付で手首をかざす。死刑囚との面会には、相手への許しスコアが五十以上必要だ。憎しみを持ち込まないための規則で、幼なじみの安慈に会うたび、響はぎりぎり通過してきた。
執行前日の数値は四十九だった。
《面会不許可》
「最後なんです」
受付官は画面から目を上げなかった。
安慈は強盗の最中に店員を刺した。響が貸した金を返すためだったと、裁判で勝手に話した。そのせいで響は職場も婚約者も失った。許したい気持ちと、顔も見たくない気持ちが、毎週数字を揺らした。
「再測定は一時間後です」
待合室で、響は安慈から届いた最後の手紙を開いた。
《おまえのせいじゃない。俺を許すな。最後くらい、嫌いなままで来い》
読むと四十六に下がった。
隣に、麦という若い配信者が座った。犯罪者との対話番組で人気らしい。彼女は安慈と会ったことがない。
「今日、取材なんです」
手首をかざす。
《許し七十二。面会許可》
ゲートが開いた。
「知らないのに許せるんですか」
響が尋ねると、麦は少し考えた。
「知らないから、嫌う材料もないので。人は生まれ直せるって、番組では伝えています」
受付官は問題なしと判断した。許しとは、憎しみが低い状態を指す。何を知っているかは測らない。
響は手紙を彼女へ差し出した。
「これを渡してくれませんか」
「私信の持ち込みは禁止です。でも、伝言なら」
響は何を言うか迷った。許す。許さない。どちらも嘘だった。
「飯、ちゃんと食えって」
麦はうなずいて中へ入った。
一時間後、再測定の時刻になった。響が手首を置く。
《許し五十一。面会許可》
扉が開く。同時に奥から麦が戻ってきた。
「さっき、執行準備で面会終了になりました」
響の許しが二ポイント上がったのは、安慈へ伝言を託せたからだった。
許したと判定された瞬間、会う相手はいなくなった。
ゲートの向こうから、昼食の味噌汁の匂いがした。響は最後の手紙を折り直し、開いたままの扉を通らなかった。