月蝕の天秤

月が欠け始めたころ、アシュケル・ナバは金塊を天秤へ載せた。

敵が捕らえている息子ニサと、こちらが捕らえた敵の水占師バジルを交換する。敵は水占師の身代金として金二十斤を求めた。重さが合った瞬間、人質二人を月門から歩かせる約束だった。

敵の天秤は、何度量っても右へ傾いた。

アシュケルは梁を見た。中央の吊り穴が、髪一本ぶん左へずれている。どれほど金を足しても、完全には釣り合わないよう細工されていた。

敵将は交換を長引かせ、月が高くなるのを待っている。月門の屋根には弓兵が隠れている。明るい月光の下なら、交換後にニサだけを射抜ける。

だが今夜は月蝕だった。

あと半刻で月は地の影へ入り、門前は闇になる。

「まだ軽い」と敵の秤役が言った。

アシュケルは砂金を一つまみ足した。梁は右へ傾いたまま。

「金を誤魔化す気か」

「そちらの秤が正しいなら、合うまで量る」

敵将は苛立ちながらも止められない。身代金の重さを条件にしたのは向こうだ。

アシュケルは金塊を外し、別の順に載せ直した。砂粒を払い、紐を結び直し、秤皿の縁まで検める。時間だけが流れる。

月の三分の一が消えた。

門前の弓兵は屋根の影へ沈む。ニサは格子の向こうに立ち、白い衣を着せられている。暗くなれば、その白さだけが狙われる。敵もそれを考え、バジルへ同じ白衣を着せていた。

二人が同じ色なら、闇の中では射てない。

「もう十分だ」と敵将が言った。「こちらの秤では十九斤八両。息子の指二本で残りを払え」

アシュケルは笑わなかった。

「水占師の指二本を先に切るなら、釣り合う」

バジルが顔を上げた。敵将は水脈を探せる男の指を失えない。

月が半分消える。

アシュケルは天秤の梁を外した。

「壊す気か」

「裏も量る」

彼は梁を百八十度返し、吊り穴のずれを反対側へ置いた。今度は左へ傾く。二度、向きを変えて差を測り、その中間になるよう金を分けた。正しい重さは最初から二十斤あった。

「細工した秤でも、表と裏を量れば嘘は半分ずつになる」

月が完全に闇へ沈んだ。

天秤は水平で止まる。

月門の格子が上がり、人質二人が歩き出した。白衣の影が二つ、闇の中で重なる。屋根の弓兵は弦を引いたまま放てない。

中央ですれ違い、ニサがこちらへ、バジルが敵側へ入る。どちらも走らなかった。

ニサの手が父の腕へ触れる。敵将の怒声が門上から落ちたが、月はまだ戻らない。

アシュケルは水平の天秤へ最後の砂金を一粒置いた。皿がゆっくりこちらへ沈む。

「月門を閉じろ。南門を開けろ」

暗闇の中で命令が走り、帰還路だけが城内へ開いた。