欠席番号の下駄箱
長く休んでいたクラスメートが戻る朝、彼女の下駄箱は手紙でいっぱいになった。
三十人が一枚ずつ書いたからだ。
『おかえり』だけの紙。授業の進み具合。給食の人気メニュー。意味の分からない漫画。何を書けば負担にならないか迷い、どれも短くなった。
私は最後まで書けなかった。
彼女が休む直前、喧嘩をしていたからだ。
文化祭の役割をめぐって言い合いになり、私が「もう来なくていい」と言った。もちろん、病気で休んだのはそのせいではない。それでも言葉が頭から離れなかった。
みんなの手紙が下駄箱へ入っていく中、私は空の便箋を握っていた。
「書かないの?」
友人に聞かれ、首を振った。
謝る手紙は、自分が楽になるために見えた。彼女が戻る日に、重い話を押しつけたくなかった。
結局、便箋ではなく小さなお守りを作った。
白いフェルトに、青い糸で下駄箱の番号を縫っただけ。中には何も入れなかった。
彼女が来ると、昇降口は静かになった。みんな自然に振る舞おうとして、逆に不自然だった。
下駄箱を開けた瞬間、手紙が雪崩のように落ちた。
彼女は驚き、それからしゃがんで一枚ずつ拾った。
私のお守りも、その中に混ざった。
「これ、誰?」
聞かれたが、声が出なかった。
彼女は番号を見て、すぐに私を見た。手芸が苦手なのを知っているからだ。
「中、何か入ってる?」
「入ってない」
「どうして」
私はやっと言った。
「戻る場所が分からなくならないように」
謝罪の言葉は、そのあと小さく続いた。
彼女はしばらく黙り、お守りを制服のポケットへ入れた。
「私も、言いすぎた」
「でも、私が――」
「今日は、続きはあとでいい」
彼女は手紙の束を抱え直した。
教室へ向かう階段で、私たちは並んだ。前と同じ距離ではなかった。けれど離れてもいなかった。
放課後、彼女の机には手紙が全部広げられていた。
私の席へ来て、白い便箋を一枚差し出した。
『今度は、来なくていいと言わないで』
私はその下へ書いた。
『言わない。休む日は、戻ってきてと言う』
お守りの中身は空だった。
その代わり、戻るための約束が一つ入った。