次の出口まで十五キロ

午前一時五十分。畑中駿は二枚の夜行列車券を助手席に置き、三宅史乃の家へ向かっていた。

今夜、二人で町を出る。父親に交際を反対されていた史乃が、ようやく家を出ると決めた。

高速道路へ入る直前、史乃から電話が来た。

「家には来ないで。父に全部話した。私は先に——」

トンネルに入り、声が切れた。かけ直しても圏外。駿の耳には〈来ないで〉だけが残った。

また家族を選んだのだと思った。これまでにも、史乃は父が倒れた、母が泣いたと言って約束を延期した。駿は料金所の分岐で、駅とは反対方向の車線へハンドルを切った。

一時五十五分、電話がつながる。

「分かった。もう行かない」

「違う、家には来ないでって言ったの。私は先に駅へ行く。父には、もう戻らないって話した」

駿は前方の標識を見た。次の出口まで十五キロ。反対車線へ戻るには、その先で折り返すしかない。

「今どこ?」

「駅。二番線。あと五分」

「向かってる」

嘘だった。本当の位置を言えば、史乃は列車を降りるだろう。そしてまた父親の家へ連れ戻されるかもしれない。駿はアクセルを踏んだが、濃霧で速度規制が始まった。

一時五十八分、途切れていたメッセージが届く。

〈父に全部話した。私は先に駅へ行く。家には来ないで。二番線で待つ〉

送信時刻は一時四十八分。真実は十分近く遅れて届いた。

電話の向こうで発車ベルが鳴る。

「駿、ホームにいる?」

「もうすぐ」

「嘘つくと、少し早口になる」

史乃は笑った。泣いている声だった。

「乗るね。来なかった理由を、今度は私が勝手に決めたくないから。いつか話せるなら話して」

「史乃、待って」

「待つって言うと、また待つから」

列車の扉が閉まり、通話が切れた。

二時ちょうど、駿はようやく次の出口へ着いた。折り返せば駅へ戻れる。助手席の二枚目の切符は、史乃の隣の席だった。

彼は料金所の直前でウインカーを出した。だが折り返し車線には入らず、ナビの目的地を駅から自宅へ変更し、そのまま本線へ戻った。