段ボールの宛名
和久と海利が兄弟だったのは、親たちの再婚から離婚までの四年間だけだ。
離婚後、和久は父と、海利は母と暮らした。学校も名字も変わり、十年会わなかった。だから海利から〈引っ越し手伝って〉と来たとき、和久は詐欺かと思った。
海利の部屋には、未梱包の本と服が山になっていた。
「明日の午前便だぞ」
「だから呼んだ」
「友達は」
「平日」
「俺も平日」
「有休余ってるって母さんが」
別れた親同士がまだ連絡を取っていることに驚いたが、聞かないことにした。
和久が本を詰め、海利が食器を包む。箱の底を十字にテープで留め、重い物は小箱へ。海利は大きな箱へ本を詰め込み、持ち上げられなくなった。
「昔から加減を知らない」
「昔って四年だろ」
「四年あれば分かる」
箱を開け直すと、中から古い野球グローブが出た。和久が海利へ貸したままになっていたものだ。
「まだ持ってたのか」
「返す機会なかった」
「今返せ」
「引っ越し先で使う」
「誰と」
「近所に河川敷ある」
和久はグローブを別の箱へ入れた。宛名欄に新住所を書く。海利は隣で、緊急連絡先の用紙を眺めていた。
「母さんでいいだろ」
「海外出張中」
「父さんは」
「もう俺の父さんじゃない」
「俺に聞くな」
「まだ聞いてない」
海利は用紙を伏せた。
夕方、すべての箱に蓋が閉じた。最後に残ったのは、台所のマグカップ二つだった。色違いで、再婚した年に親たちが買ったもの。和久は青、海利は白を使っていた。
「片方捨てる?」と海利が言う。
「割れてないなら持ってけ」
「二つもいらない」
「客が来るかもしれない」
「来るの」
「知らない」
二つとも同じ箱へ入れた。和久が〈台所・割れ物〉と書くと、海利がその下へ小さく〈先に開ける〉と足した。
引っ越し当日、和久は新居まで同行した。箱を運び終え、帰ろうとすると、海利があの用紙を差し出した。緊急連絡先の欄に、和久の名前と番号が書かれている。続柄の欄だけ空白だった。
「ここ、何て書く」
「空欄で通るだろ」
「たぶん」
海利はそのまま提出用封筒へ入れた。和久は訂正を求めなかった。
玄関には未開封の箱が積まれていたが、〈先に開ける〉だけはもう開いていた。白いマグにコーヒーが入り、青い方は空のまま流し台の横に置かれている。
和久は帰る前に青いマグを洗い、棚の手前へ戻した。奥へしまうほど、遠い客ではなかった。