水たまりの明日
雨上がりの夕方、水たまりをのぞくと、少年には翌日最初につまずく人が映った。
場所はぼんやりしているが、顔と服は分かる。
学校の廊下で転ぶ友達。
買い物袋につまずく母。
玄関の段差へ足を取られる隣人。
少年は翌日そばにいて、腕を支えたり、床の物を片づけたりした。
皆は偶然だと思い、
「よく気がつくね」
と褒めた。
春の雨のあと、水たまりに祖父が映った。
青い帽子が地面へ落ち、祖父は公園の道へ膝をついている。
祖父は最近、足元が不安定だった。
それでも杖を嫌い、一人で散歩へ出る。
少年は翌朝、玄関の靴を隠した。
「今日は外へ行かないで」
「学校は?」
「休む」
「私のために休むな」
祖父は怒り、別の靴で出ていった。
少年は追いかけた。
祖父が向かったのは公園ではなく、学校までの道だった。
翌週の運動会へ一人で歩いて行けるか、練習していたのだ。
家族へ送迎を頼めばよいのに、
「孫の行事で、孫より世話をされるのは嫌だ」
と言った。
公園の坂で、祖父の足がもつれた。
青い帽子が落ちる。
少年は腕をつかんだが、支えきれず、二人でゆっくり膝をついた。
予知どおりだった。
ただ、祖父は一人ではなかった。
「だから言ったのに」
少年が泣くと、祖父は地面へ座ったまま笑った。
「お前がいても転んだな」
「笑うところじゃない」
「転ばないことだけが目標なら、家から出られん」
二人は帰宅し、家族へ全部話した。
祖父は杖を使うことを承知した。
少年も、運動会当日に祖父を見張らないと約束した。
代わりに、途中のベンチで一緒に休む時間を予定へ入れた。
運動会の日、祖父は杖をつき、自分の足で校門へ来た。
一度小さくよろめいたが、少年は競技中で助けられない。
隣を歩く父が腕を貸した。
その夕方、水たまりに誰も映らなかった。
雨が浅すぎたのかもしれない。
少年は予知が消えたことを不安に思い、すぐ少し安心した。
誰かがつまずく未来を全部自分で受け止めなくてもよい。
転んだあと立つ手は、家族や友人の間に何本もあるのだった。