浮遊牢獄から高さを運び下ろす

階段荷役ラグゼオは、王宮で家具を上階へ運ぶ専門だった。

魔法昇降機は貴族専用。使用人の寝台や厨房の樽は、彼が何百段も担いで上げる。肩を痛めても「階段を歩くだけ」と言われ、荷を置けば床の傷まで弁償させられた。

彼の技能は、段数を数えるだけのものと思われていた。

【階上搬入:荷が目的階へ達するまでの段数を担い手が引き受ける。段数の上限はない】

宰相は「一万段でも上れるなら、死ぬまで働け」と笑った。

その宰相が反対派を閉じ込めたのは、王都上空の浮遊牢獄だった。地上から三千尺、階段も橋もない黒い塔。王女と議員百人を人質にし、夜明けに浮遊核を切って下町へ落とすと宣言した。

救出隊の飛竜は結界に弾かれ、転移術は高さの座標を奪われる。牢獄はすでに降下を始め、真下では市民が逃げきれずにいた。

ラグゼオは宮殿の大階段から、修理用の一本を外して広場へ置いた。

「空の塔へ階段は続いていないぞ」

宰相の声が魔法鏡から響く。

「だから、足りない段数を私が引き受けます」

彼は浮遊牢獄を一件の荷、地上の広場を目的階に定めた。塔が地上へ届くまでに必要な高さを段数へ直せば、十二万八千段。

上限はない。

ラグゼオが階段板を肩へ載せ、一段だけ上った。

その背へ十二万八千段分の重みが落ちる。石畳が沈み、膝から血がにじんだ。しかし空の牢獄からは、同じ段数が消えていく。塔は落下せず、家具を階下へ運ぶように、一階ずつ静かに降りた。

最後の一段を踏み切ると、黒塔の基部が広場へ触れた。衝撃はなく、牢の扉が地上の高さで開く。王女と議員たちは自分の足で外へ出た。

宰相が逃げ込んだ最上階は、牢獄本体から切り離せる別の離脱塔だった。ラグゼオが指定した荷には含まれず、その一室だけが空へ残り、王都中から見える檻になった。

救出された議員たちは、血のにじむラグゼオの肩へ王家の外套を掛けた。魔法昇降機を独占していた貴族たちは、地上へ降りた牢獄の階段を歩いて裁判所へ向かう。十二万八千段を引き受けた男に、もう一段上れと命じる者はいなかった。

《職業が【階段荷役】から【天階搬送王】へ書き換わりました》