深夜二時の進捗報告

八月三十日、午後十一時五十八分。

『宿題終わった人、進捗報告』

牧之瀬凛太がクラスのグループに送った。

すぐに返信が並ぶ。

『数学あと八ページ』

『作文ゼロ』

『既読をつけたくなかった』

『牧之瀬は?』

『全部終わった。監督する』

最後の一文に、怒った顔の絵文字が十四個ついた。

私は英語のノートを開きながら、そのやり取りを眺めていた。残りは和訳十五問。眠気で辞書の文字が泳ぐ。零時半、牧之瀬が一時間ごとの進捗表を作り、全員の名前を勝手に並べた。

午前一時。

『数学、残り五』

『作文四百字』

『英語、残り十二』

『進んでなくない?』

私の報告に、牧之瀬から個別のメッセージが来た。

『三問しか進んでない。大丈夫?』

『大丈夫』

本当は、大丈夫ではなかった。昼から頭痛がして、一度寝たせいで遅れていた。けれど「手伝おうか」と言われれば、答えを見せてもらう自分が想像できた。

午前二時。

グループに牧之瀬の報告だけがない。監督役が寝落ちしたのだと、みんなで笑った。

そのとき、家のインターホンが小さく鳴った。玄関を開けると、牧之瀬が自転車の横に立っていた。片手にはコンビニの袋。

「声、出すなよ。近所迷惑だから」

「何してるの」

「監督」

袋には、冷たいお茶と板チョコ、それから英語の文法書が入っていた。答えではない。

私たちは家の前の階段に座った。牧之瀬は問題文を読み、私が訳す。間違えると、文法書のページだけを示す。夜風はぬるく、遠くで新聞配達のバイクが走っていた。

午前三時十二分、最後の一文を書いた。

グループへ写真を送る。

『英語、終了』

すぐに、まだ起きていた三人から拍手の絵文字が届いた。牧之瀬も、隣にいるのに同じ絵文字を送った。

「全部終わってたんじゃないの」と聞くと、彼は鞄から真っ白な作文用紙を出した。

「監督してたら、自分の忘れてた」

私たちは声を殺して笑った。

翌日、グループの進捗表は全員『完了』になった。最後に終わった牧之瀬の作文題名は、『眠らなかった夏の夜』。

私の夏休みの記憶にも、花火ではなく、深夜の階段でめくった文法書の音が残っている。