火球を荷造りする
「《荷造り士》か。輪を通った無生物を箱へしまうだけ」
勇者隊長フレッサは、ポルカの腰に下がる真鍮の輪を見てため息をついた。
【技能:輪を完全に通過した無生物一つを、収納箱へ移す】
輪は皿ほどの大きさ。剣や道具はしまえても、人や魔獣は入らない。収納箱も一つだけ。戦闘では荷物持ち以上になれないと判断された。
魔将ゴルバンとの戦いで、その勇者隊は全滅寸前になった。
ゴルバンは指先に黒い火種を作る。最初は豆粒だが、空気を吸って膨らみ、十歩先では家ほどの火球になる。勇者の聖盾でも受け止められず、逃げ道のない峡谷が赤く染まった。
「散れ!」
だが火球は峡谷いっぱいに広がる。
ポルカは敵へ向かって走った。
前世で引っ越し業者だった彼は、大きな家具を運ぶとき、完成した形で考えない。扉を通らないなら、脚を外す。火球も同じだ。大きくなってからでは輪を通らない。なら、小さいうちに梱包する。
仲間の制止を振り切り、ポルカは熱で焦げる地面を踏んだ。輪を通し損ねれば、火種は顔の前で膨らむ。収納できても、箱が魔法を『物』と認めなければ同じだ。試した者はいない。荷造り士を戦場へ連れてきた者も、今までいなかった。
ゴルバンの指先へ、真鍮の輪を差し出した。
「馬鹿が。焼け死ね!」
黒い火種が放たれ、輪の中心を通る。
技能が発動した。
膨らむはずの火球が消え、ポルカの背負った収納箱が内側から一度だけ鳴った。峡谷に熱も爆風も来ない。
ゴルバンが目を見開く。
「返せ」
「荷物の受取人は、あなたでいいですね」
ポルカは魔将の胸当てに輪を押し当て、箱を開いた。
収納されていた火種が輪から外へ出る。閉じ込められていた時間を取り戻すように、一瞬で家ほどへ膨張した。至近距離のゴルバンを呑み込み、黒炎の柱が峡谷の天井まで立つ。
火が消えたあと、残っていたのは溶けた魔槍だけだった。
フレッサは聖剣を下ろし、ポルカの収納箱を指で叩いた。
「荷物持ちと呼んだな」
「事実です。危険物も扱います」
勇者隊長は笑い、自分の隊長章を半分に割って片方を渡した。
「次から魔王の大技は、全部おまえが預かれ」
その日から勇者隊では、最も恐ろしい攻撃を『ポルカ宛ての荷物』と呼ぶようになった。