灯りは一つで十分です

地下聖堂の灯守侍女リンデは、司祭アシェルが燭台を増やすたび二本目を消した。

墓碑の埃を払い、供花の水を替え、夜の祈りには一本の蝋燭だけを残す。薄暗さを好む変わり者だと皆は思っていたが、彼女のいる夜に火が消えたことはない。古い墓名を一つも読み違えず、誰も来ない墓にも同じ量の水を供えた。

月のない晩、祭壇の背後から影が立ち上がった。

人の形をしているのに、光を当てるたび二つ、四つと枝分かれする。

聖職者狩りの暗殺魔《百影》。灯りが多いほど数を増し、すべての影が同時に喉を裂く。

アシェルは助けを呼ぼうとした。

リンデは二本目の蝋燭を摘まんで消す。

ふっ。

闇が深くなる。

それなのに、百の影は一つへ戻った。

リンデが残った炎へ手をかざすと、その影だけが祭壇の上へ縫い止められた。彼女は蝋燭を傾け、蝋を一滴落とす。白い滴が影の胸へ触れた瞬間、暗殺魔は声もなく小さくなり、固まった蝋の中へ閉じ込められた。

司祭は祭壇の聖杯に映る横顔を見て、古い異端審問録を思い出した。

影の王を一本の灯火で殺し、名を記録から消した伝説の暗殺者《独火》。その女は光ではなく、影の数を支配したという。

リンデは固まった蝋を爪で剥がし、使用済み蝋の箱へ落とす。箱の底に刻まれた浄化印が淡く光り、黒い染みは白へ変わった。祭壇を布で拭き、倒れた供花を立て、床へ散った煤を指先で拾う。

「独火なのですね」

アシェルが問うと、リンデは消した燭台を棚へ戻した。

「その名の者は、とうに埋葬されました」

「では、私は誰に救われたのでしょう」

「灯守の侍女にございます」

答えは平凡だった。

だが彼女の足元に影は一つしかなく、それさえ炎より静かだった。

やがて朝の助祭たちが扉を開く。

祭壇は整い、祈りを邪魔するものはない。誰も使用済み蝋の一粒に、恐れられた怪物が封じられていたとは思わない。

アシェルが新しい燭台へ手を伸ばすと、リンデは穏やかに首を振った。

「灯りは一つで十分です」