無料の土曜日を休む
土曜の午後二時、ひかりはベッドの上で、他人の休日を見ていた。
友人の投稿にはホテルのランチ、海沿いのカフェ、美術館の企画展。どれも「自分を整える休日」という言葉が似合う。ひかりの部屋には、干しっぱなしのタオルと、昨日のレシートと、飲みかけの水がある。
給料日まで六日。外出に使えるお金は、ほとんどない。
だから今日は無料で充実させようと思っていた。午前中に図書館へ行き、川沿いを散歩し、作り置きをして、夜は配信で映画を見る。ノートには時間割まで書いた。
けれど午前中は洗濯機を回しただけで終わった。昼に冷凍うどんを食べたあと、図書館へ行く気力も消えた。無料なのに行けない自分が、ますます怠けているように思える。
スマホの未読は七件。友人のグループでは、来月の旅行の候補地を話していた。既読をつけると返事を求められそうで、通知だけ読んだ。
ひかりはベッドから起き、カーテンを開けた。晴れていた。出かけない日に限って天気がいい、とつぶやく。
窓辺に座ると、床へ長方形の日差しが落ちている。洗濯したタオルの端が風で揺れた。外から子どもの自転車のベルと、遠くの掃除機の音が聞こえる。
散歩くらい行こう、と立ち上がりかけて、やめた。
お金を使わない休日まで、成果を出す日にしなくていい。図書館へ行かなければ知性が減るわけでも、作り置きをしなければ来週が崩れるわけでもない。今はただ、眠かった。
ひかりはスマホを伏せ、日差しの四角に足を入れた。靴下越しに、床が温かい。
タイマーを三十分に設定し、毛布を肩まで引き上げる。起きたらタオルを取り込む。それ以外は決めない。
ホテルのランチも美術館もない土曜日。無料で充実する計画さえ達成しない土曜日。それでも休んだ時間は、空白ではない。
ひかりは旅行のチャットを未読のままにして、目を閉じた。返事は、眠ってからでよかった。
タイマーが鳴る前に一度目を覚ましたが、ひかりは止めずにまた目を閉じた。日差しは少し移動し、足元から膝のあたりまで来ていた。
三十分を守る必要さえない。休日の計画表に、寝過ごした時間を赤字で書く人はいない。少なくとも、この部屋には。