焼き竹の割符
雁門の内側で、門尉・孟丘は半片の竹符を火鉢へかざした。
竹には五つの刻みがある。城外の使者が持つ半片と合わせ、刻み目が通れば開門する。それが主君・公孫奕の軍令だった。
ただし今夜、城外にいるのは味方ではない。
敵国の使者・蘇廉が、小窓の向こうで囁いた。
「人質二十名を連れ帰る。門を一度だけ開けよ」
「兵を入れぬ証は」
「ない」
「正直だな」
「嘘をつくには、時間が足りぬ」
夜明け、公孫奕は敵国から預かった和平の人質を城楼で斬る。首を投げ、相手を怒らせて先に攻めさせるためだ。戦を始めた罪を敵へかぶせれば、離反しかけた諸侯をつなぎ止められる。
孟丘はその策を聞いたとき、見事だと思った。
見事な策は、人を数として見る。二十の首で五万の軍を動かせるなら安い。そう考えられる者だけが歴史に名を残す。
孟丘は名を残したくなかった。
「割符を見せろ」と彼は言った。
小窓から敵側の半片が差し込まれる。刻みは四つしかない。五つ目が合わなければ、門兵は偽物と判断する。
公孫奕は昨日、割符を新しくした。内通を疑い、刻みを一つ増やしたのだ。孟丘が敵へ渡した写しは古くなった。
蘇廉が問う。
「合わせられるか」
「竹を削れば傷で分かる」
「なら終わりだ」
「焼けば、古い傷に見える」
孟丘は火箸で自分の半片の五つ目を焼き潰した。敵の符に刻みを足すのではない。味方の符から一つ消す。門兵が照合する正本そのものを変えれば、偽物が本物になる。
背後で声がした。
「何を焼いている」
公孫奕の近侍が立っていた。腰に剣、手には人質処刑の名簿。
孟丘は火鉢から竹符を上げた。
「湿気を飛ばしております」
近侍は符を奪い、刻みを数えた。
「四つしかないぞ」
「最初から四つです」
「いや、殿は五つと――」
「殿のお言葉と、軍令符のどちらを信じます」
門兵たちが近侍を見る。規律に従えば、符が正しい。公孫奕は人を縛るため、文書と印を神聖なものにした。その縄が今、主の首へ回っている。
小窓の外から、もう半片が差し込まれた。
孟丘は二片を合わせた。四つの刻みが一本の線となる。
近侍が剣を抜くより早く、門兵長が真正の割符へ礼をした。
「開門!」
太い閂が持ち上がり、人質を奪い返す兵のために雁門が開いた。