焼却命令の出た図書塔

王が図書塔を壊しに来たのは、自分の即位記録を消すためだった。

前王の遺言には、王位を継ぐ者として別人の名がある。司書レミアナは原本を保管し、写しを十二冊作った。そのため国王カシュバルは、塔ごと彼女を反逆者にした。

「本を渡せば、命だけは助ける」

図書塔の外で王が告げる。

レミアナは窓辺に立ち、索引札を一枚持っていた。

「貸出には署名が必要です」

「塔を消せ!」

工兵が土台の術式を切る。外城壁と一体になった図書塔は中央から裂け、何万冊もの本と石棚を抱えたまま崩れ落ちた。

紙と石の煙が庭園を覆う。

王は遺言が燃えるところを確かめようと目を凝らし、異常に気づいた。

頁をめくる音がする。

風に散る紙ではない。一枚を選び、指で送り、静かに伏せる司書の手順だった。三十年前、彼が少年として塔へ通った頃から変わらない音だ。

煙が晴れる。

レミアナは同じ姿勢で立っていた。左手に索引札、右手を開いた本へ添えている。塔の石は彼女と書架を避けて細かく割れ、本は一冊も床へ落ちていない。

庭へ開いた一冊から、前王の遺言の写しが風に乗った。見物の官吏たちが拾い、署名と王印を確かめる。塔を崩せば記録を消せるはずが、レミアナの周囲だけ保護された書架が証拠を外へ配り始めた。カシュバルは攻撃の失敗と即位の嘘を、同時に見られていた。

レミアナは騒ぎの中でも貸出票の日付を直した。王朝が何度変わっても、返却期限を守らせてきた手つきだった。

「不死の魔女め」

カシュバルは王杖を掲げた。記録も記憶も光で焼き切る〈太陽槍〉。壁が防いだのではないと証明するため、彼女だけを狙う。

黄金の槍が窓を貫き、書架を白煙で隠した。

煙が薄れたあとも、レミアナは同じ頁へ指を置いていた。太陽槍は胸元で光の粒になり、索引札すら焦がしていない。

王付き鑑定師が測定鏡を向ける。鏡は彼女の防御値を読み取ろうと何度も曇り、最後に亀裂を入れた。

床へ落ちた鏡片の一つに、結果だけが残っていた。

《防御値――測定不能》