煤のつかない勲章

連続放火事件の記念展示に、英雄の制服が出されることになった。

二十年前、五件目の火災で住民一人が死亡し、犯人は捕まらなかった。現職の消防捜査官・榛沢功は、幼児を救出した功績で表彰され、その後すべての火災捜査を指揮してきた。

警察資料室の写真担当・舞鶴谷史佳は、展示用に当時のネガを高解像度で読み取っていた。救出直後の榛沢が、焼けたアパート前で子どもを抱いている。だが反転画像を拡大すると、窓ガラスに別の場面が映っていた。

榛沢が、火災前の建物脇で金属缶を持っている。

「反射の歪みです」

展示確認に来た榛沢は即答した。

史佳は次のコマを開いた。撮影時刻は出火十九分前。缶の側面に、警察の証拠保管用溶剤のラベルが見える。火元から検出された促進剤と同じ成分だ。

「なぜ現場にいたんです」

榛沢は展示室の扉へ鍵をかけた。

「四件目までの放火犯は、警察官だった。押収品を盗み、借金返済のために保険金詐欺へ加担していた。私は証拠をつかんだ」

「五件目は」

「犯人を誘い出すため、空き部屋に少量まいた。燃やす前に確保する計画だった。だが別室に住民が残っていた」

幼児は榛沢が連れ出したのではない。近隣住民がすでに救助し、榛沢は写真撮影の直前に抱き取った。警察は失敗を英雄譚へ変え、元の放火犯も内部処分だけで退職させた。

「ネガを出せば、放火捜査二十年分の信用が崩れる」と榛沢は言った。「私が鑑定した事件の判決も揺らぐ。真犯人が何人釈放されるか分からない」

展示台には、金色の勲章と白い手袋が置かれている。制服の袖には煤がほとんどない。火中へ入った英雄の服ではなかった。袖口まで、白いままだった。

史佳はネガを元の封筒へ戻さず、未解決事件の新証拠袋へ入れた。袋の透明面から、缶を持つ榛沢が見える。

「展示は中止だ」と彼が命じる。

史佳は勲章を展示台から外し、その場所へ証拠袋を立てた。次に、展示室の公開用スキャナーを監察保存へ切り替え、最高解像度で読み込みを開始した。