王冠の錆釘
崩れた玉座の前に、一本の錆釘が刺さっていた。
王冠の内張りを留めていた釘だ。王が斬られた夜、冠は床へ落ち、この釘だけが敷石の隙間へ残った。
レヴァク・セヴァルとブラシュ・エモンは、その夜の護衛だった。王を失い、互いを臆病者と呼びながら七年を浪人として歩いた。レヴァクは城門を閉めに走り、ブラシュは王を抱えて逃げようとした。門は守られ、王は死んだ。どちらの選択が正しかったか、国が滅びた後では裁く者もいない。
今夜、王の孫が都へ戻る。親衛長に選ばれるのは一人だけ。決闘は同じ玉座の間で行われた。天井は半分焼け、夜空が梁の向こうに見える。王孫の兵はまだ二十人。親衛長とは肩書ではなく、明朝この廃墟へ来る百人を二十人で止める男の名だった。勝者の給金は、国が戻った後に払うとされた。国が戻らなければ、借用証だけが墓標になる。ブラシュはそれでも王孫へ膝をついた。レヴァクは立ったまま、玉座のひびを数えていた。
「釘を踏むな」
若い王孫が言った。
「祖父の血が染みた場所だ」
二人は長剣を抜いた。
ブラシュは力で押した。柱際へ、窓際へ、レヴァクを追い込む。レヴァクは受けるだけで、玉座の前を大きく回った。
三年前、彼は一度この廃墟へ戻り、床を調べていた。釘のある石から二歩北。そこだけ梁が焼け、敷板の下が空洞になっている。錆釘は墓標ではなく、距離を測る印だった。
レヴァクは釘を踵で感じ、そこで足を止めた。
「また逃げるか」
ブラシュが斬り込む。
レヴァクは剣を受け、わざと押し負けた。身体を半歩だけ横へ逃がす。
ブラシュの前足が、釘から二歩北の板へ乗った。
腐った敷板が割れ、脚が膝まで沈む。長剣が柱へ当たり、腕が開いた。レヴァクの刃は、その喉へ静かに置かれた。
「床まで味方につけたか」
ブラシュが吐き捨てた。
「主がいない七年で、味方を選ぶ癖がついた」
レヴァクは剣を引き、ブラシュを穴から引き上げた。王を守れなかった罪は、どちらか一人を殺しても軽くならない。
王孫は錆釘を抜き、黒金の旗の留め具へ打ち込ませた。
夜半、失われた王旗が玉座の上に上がった。