王子の偽りの義父

酒場娘のエルネアは、王子との結婚を認めてもらうため、店の常連客三人へ頼んだ。

「一晩だけ、貴族の両親と兄のふりをして」

元傭兵のガドンが父、占い師のミュラが母、酔いどれ詩人が兄になった。

王宮の晩餐で、国王が父役へ尋ねる。

「どちらの家門だ」

ガドンは胸を張る。

「麦酒樽家です」

エルネアが小声で言う。

「それは酒場の銘柄」

「紋章は?」

「交差する二本の串焼き」

国王がうなる。

「聞いたことのない名門だ」

「辺境ですので」

母役のミュラは王妃へ言った。

「娘は月の第三周期に生まれ、火と水の星を持ちます」

王妃が感心する。

「由緒ある占星術ね」

エルネアが耳打ちする。

「店で無料占いしてるだけ」

「今夜は有料級よ」

兄役は王子の肩を抱いた。

「妹を泣かせたら、一編の詩にして王都中へ」

王子は真剣に答える。

「必ず幸せにします」

「では最初の酒代を」

「兄さん」とエルネア。

「家族の借金も家族だ」

国王はガドンへ問い続ける。

「領地はどれほど」

「酒場の裏庭」

「兵は」

「常連が三十人」

「戦歴は」

「勘定を払わず逃げた客を百二人捕らえた」

国王は身を乗り出した。

「実戦経験豊富ではないか」

「相手は酔っていました」

「不利な敵を選ぶ知略!」

嘘はなぜか高評価になった。

だが給仕がガドンを見て声を上げる。

「昨夜、城下の酒場で腕相撲をした親父さん!」

正体がばれ、エルネアは頭を下げた。

「私は貴族ではありません。この三人も家族のふりです」

国王はしばらく黙った後、笑った。

「知っている。私も若いころ、その酒場で勘定を踏み倒し、ガドンに捕まった百二人目だ」

ガドンが顔を近づける。

「ようやく払っていただけますか」

「息子の結婚祝いと相殺で」

王子とエルネアの結婚は許された。

王妃は偽の母役へ尋ねた。

「あなた方は家族ではないのですか」

ミュラは三人を見回す。

「血はつながっていません。でも、この娘が生まれたころから店で見てきました」

ガドンもうなずく。

「困った時に駆けつけるなら、家族役くらい名乗っていいでしょう」

国王は杯を上げた。

「では王宮側も、今日から親戚だ」

詩人が叫ぶ。

「親戚割引で酒代を!」

「それはない」

王家が最初に結んだ縁は、未払いの酒代だった。