王子の答案に降る赤砂
王立魔法学院の卒業式で、第一王子フェルディオ・ラグナは満点答案を掲げた。
「砂塵結界の新解法は、私が考案した」
大講堂が拍手に包まれる。平民奨学生アニェル・タルサは、落第者の列に立たされていた。彼女の答案は提出直前に消え、代わりに白紙が机へ戻されていた。
試験監督でもある王子は笑う。
「彼女は私の答案を盗み見たうえ、失敗したのでしょう」
学長が眉を寄せた。
「新解法なら、学院記録へ永久保存する必要があります。殿下、発案者宣誓を」
「無論だ」
フェルディオは答案へ王家の血印を押した。
紙から赤い砂が噴き上がり、空中に筆跡が一画ずつ再現される。
学院の試験紙は不正防止のため、書かれた文字の順序と時刻を記憶する。発案者宣誓は、答案の履歴を公開する手続きでもあった。
最初に現れたのは、アニェルの細い筆跡だった。
――第三刻十四分、逆位相の式を記入。
――第三刻二十二分、砂圧を半減する補助線を追加。
答案が完成した後、別の手が紙を持ち上げる。
――第四刻一分、答案所有者をフェルディオ・ラグナへ変更。
講堂に、王子自身の小声が流れた。
『平民の解法が首席になれば王家の面目が潰れる。白紙と入れ替えろ』
続いて、彼が答案を丸ごと写す筆跡。途中で間違え、アニェルの原紙を見直す様子まで再現された。
フェルディオは血印をこすった。
「王族の答案を疑うとは不敬だ!」
血印がさらに強く光る。宣誓者が否定したため、照合記録が追加された。
――音声および血紋、フェルディオ・ラグナ本人。改変なし。
自分の権威を示すため押した印が、逃げ道を完全に閉じた。
アニェルは落第札を首から外し、壇上の白紙へ置いた。赤砂が白紙の下から彼女の本来の答案を呼び戻す。
赤砂は講堂中央で一枚の順位表を作り直した。首席欄から王子の名が消え、《アニェル・タルサ》へ変わる。奨学生席から上がった拍手は、王族席の沈黙よりも長く、彼女が白紙にされた時間を埋めていった。
学長は王族席を見ず、学院規則を読み上げた。
「フェルディオ・ラグナ。答案窃取と試験記録改竄により、王立魔法学院を本日付で退学とする」