町内放送が出ていけと言う
夕方六時、朝凪町の防災放送から低い声が流れた。
〈出ていけ。ここはお前たちの町ではない〉
町内会館へ、住民が押しかけた。
会長の五百旗頭詠はマイクを調べる。
「誰かの悪戯です」
副会長は新住民を指す。
「古い神社を壊したから祟りが」
新住民は商店会長へ返す。
「立ち退きを進めてるそちらでは」
商店会長は会長を見る。
「放送設備の鍵を持つのは町内会」
詠は机を叩く。
「怪異と地上げと機器管理を一緒にしないで」
翌日も同じ声がした。
〈早く出ていけ〉
今度は語尾に笑い声まで混じった。
神主が呼ばれた。
「土地の記憶が怒っている」
不動産業者が言う。
「価値が下がる発言は控えて」
神主は業者を見る。
「あなた方が山を削った」
「造成許可は町が」
副会長は役所を指す。
「行政の霊障です」
詠が止める。
「責任を県まで広げないで」
住民たちは、誰が追い出される対象かで揉めた。
「“お前たち”は新住民」
「商店街の古参かも」
「町全体なら全員」
「声の主だけ残る?」
「人口一人の町になる」
「固定資産税を一人で払えるのか」
「霊に財政を心配させるな」
詠は住民へ避難先の希望まで聞いた。
「本当に追い出されるなら、海側と山側どちらへ」
商店会長が言う。
「商店街ごと動ける場所」
副会長は新住民を見る。
「まず最近来た人が戻れば、霊も納得する」
新住民は反論する。
「古参が土地を占有してるから怒ってるのかも」
不動産業者は計算機を出した。
「全員出れば再開発はしやすい」
全員が業者を見る。
「今、一番怪しい発言をしましたね」
三日目、詠たちは放送室へ隠れた。
六時になると、装置が自動起動する。だが誰もマイクへ触れていない。
〈出ていけ——〉
詠が音源履歴を開くと、隣町の演劇サークルが先週、防災無線を使った避難訓練用ドラマを録音していた。保存先を間違え、朝凪町の定時チャイムへ上書きしていたのだ。
笑い声は、録音中に台詞を噛んだ役者のものだった。
演劇サークル代表が謝罪に来た。
「本番用は“津波が来る、早く高台へ逃げろ”でした」
詠は尋ねる。
「なぜ“町ではない”と?」
「異世界へ転移する芝居の稽古音源も同じフォルダに」
町を追い出そうとした幽霊は、ファイル整理のできない役者だった。