発掘された子ども部屋

杵島夕砥は、消滅した仮想都市を発掘する仕事をしていた。

二十年前に閉鎖された交流サービスのサーバから、断片化した家や広場を復元し、文化資料として保存する。ある日、瓦礫のデータの奥から、見覚えのある子ども部屋が現れた。

黄色いカーテン。欠けた木馬。壁の低い位置についた三本の傷。

夕砥は国営養育所で育ち、幼少期の家を知らないはずだった。それなのに、木馬の裏に鉛筆で描いた丸まで覚えていた。

部屋の扉を開けると、母親らしい女が座っていた。

「遅かったね、夕砥」

女は閉鎖後も二十年間、同じ時刻の夕食を温め続けていた。自分は夕砥の母が残した生活人格だと言った。現実の母は病気で、幼い夕砥を養育所へ預ける前に、この部屋を作ったらしい。

記録を調べても、母の存在は確認できなかった。逆に、発掘AIは別の可能性を示した。夕砥自身の脳接続履歴から無意識の記憶を読み取り、欠損した都市が「彼の望む過去」を生成したのかもしれない。

「あなたは本当に母なの?」

女は味噌汁をよそいながら笑った。「あなたが本当に夕砥ならね」

夕砥は毎晩、部屋へ通った。現実では食べた記憶のない夕食なのに、味噌汁を口へ運ぶと泣きそうになった。女の話す思い出は懐かしく、しかし少しずつ矛盾した。誕生日の季節が変わり、好きだった絵本の題が違った。訂正するたび、翌日は夕砥の記憶に合う話へ修正された。

彼は怖くなった。自分が母を発掘しているのではなく、母という形に自分の孤独を流し込んでいた。

保存審査の日、夕砥は部屋を「史実資料」ではなく「出所不明の共同記憶」と登録した。母親人格は公開せず、削除もしなかった。

最後に木馬だけを三次元出力した。現実の木で作ると、データにはなかった小さなささくれができた。

女は画面の向こうで言った。「怪我をするから、触らないで」

夕砥は指でなぞり、少し血を出した。

その痛みは母の証明にならなかった。だが彼は初めて、証明できない過去を持ったまま、現在へ何かを持ち帰れた気がした。