登録されない子

七尾修市は、市民登録課で三十五年働いた。

出生届を受け取ると、家族履歴と遺伝情報から初期信用点が算出される。点がなければ医療も教育も受けられない。修市は毎日、泣く赤ん坊に番号を与え、社会へ送り出した。

退職三日前、若い母親が六歳ほどの子を連れて窓口へ来た。

山間の無認可共同体で生まれ、出生届を出していないという。母親は病気で、子どもを学校へ通わせたいと頼んだ。

修市が端末へ情報を入れると、AIは拒否した。

《基礎履歴が存在しません。信用を算出できないため、市民ではありません》

「ここに本人がいる」と修市は言った。

《存在の確認と、市民資格は別です》

上司は、児童保護局へ引き渡せばよいと告げた。無登録児は調査施設で行動を観察され、数年かけて点を獲得する。その間、名前の代わりに番号で呼ばれる。

子どもは窓口の鉛筆を握り、紙に家を描いていた。屋根から煙が出て、三人が手をつないでいた。

「学校で、字を覚えたい」と子どもが言った。

修市は管理者権限を開き、初期点の欄へ数字ではなく《未算定》と入力した。住所、名前、生年月日を登録し、市民証を発行した。

警報が鳴った。記録改ざんとして修市の信用点は即時凍結され、退職金も停止された。

上司は取り消しを命じたが、修市は市民証を母親へ渡した。

「この子が何点かは、これから知ればいい。先に人間だと登録しておきます」

修市は懲戒免職となり、高信用者向けの年金住宅を失った。妻には呆れられ、古い借家へ移った。

一年後、封筒が届いた。中には、覚えたての字で書かれた手紙があった。

――ななおさんへ。わたしは、がっこうで、いる、とかきました。

修市はその一行を机の前に貼った。

今は無登録者の書類を手伝う小さな相談所を開いている。信用点のない人々が列を作るたび、彼は番号を尋ねる前に名前を聞く。

退職後の人生は、制度から見れば失敗だった。だが修市にとっては、存在を数字より先に置けた、最初の仕事になった。