白いシーツと黒い袋
荒砥瑛は、満室のホテルへ朝の清潔なリネンを届けた。チェックアウトまで一時間。ところが従業員用エレベーターが故障し、一階の搬入口には交換用シーツの台車と、使用済みの回収袋が並んでいた。
客室係は焦っていた。
「同じ台車に上下で分けて載せましょう。二往復する時間がない」
瑛は清潔な束へカバーを掛けたまま、黒い回収袋を見た。一本だけ口が湿り、床に淡い染みがある。隔離対応の客室から下ろした袋で、通常の回収分とは別に運ぶ印が付いていた。
同じ台車に触れれば、袋が破れなくても交差汚染の可能性が生まれる。瑛はホテル側の提案を断り、動線を分けた。清潔なリネンは非常階段から先に上げる。回収袋は搬入口に残し、清掃責任者が専用容器を持ってくるまで動かさない。
「先に汚れ物を下げないと、廊下が埋まります」
客室係が言う。
瑛は客室配置を確認し、チェックアウトの早い階から清潔な束を少量ずつ運んだ。空になった台車は消毒しても回収には使わず、別の台車を借りる。階段では一段ごとに視界を確保し、抱えすぎない。急げば転倒し、清潔な束を床へ落とす。
三往復目で、故障したエレベーターが復旧した。だが瑛はすぐには使わなかった。修理員の道具と油が床に残っている。養生が終わってから、残りを上げた。
客室係は新しいシーツを抱え、息をついた。
「結局、間に合いました」
「間に合わせるために、混ぜない順番を決めたんです」
支配人は宿泊客の目に台車が映ることを嫌がったが、瑛は清潔側の経路だけを先に確保した。見栄えを優先して回収袋を客用廊下へ出せば、においだけでなく不安も広がる。作業中の表示板を置き、客が通る時間には一往復ずつ止めるよう客室係と決めた。
受領印をもらったとき、回収業者の専用車が到着した。瑛の台車は空になったが、ホテルの朝はこれから百室分のベッドを作る。車へ戻ると、次の施設からタオル不足の連絡が入っていた。白い束を積む前に、彼は荷台の床をもう一度消毒した。