白虎の怒りは花粉症

白虎神が薬都の門前で吠えた。

白い鬣が逆立ち、金の瞳から涙が流れる。山を割る神獣の怒声に、薬師たちは店を閉め、衛兵は眠り毒を塗った矢を並べた。

見習い薬師のティナは、神獣の鼻先を見ていた。

吠える直前、必ずくしゃみをしている。

鬣の根元には、赤い粉がびっしり付着していた。

泣き棘花は今朝、北門へ運び込まれたばかりだ。ティナ自身、粉を吸って半日涙が止まらなかった。神獣だから薬が不要だと決めつけるより、同じ症状を同じ苦しみとして見る方が、薬師らしいはずだった。

「あれ、泣き棘花の花粉です」

師匠は顔をしかめる。

「白虎神が花粉ごときで苦しむものか」

「身体が大きければ、痒くないんですか?」

返事を待たず、ティナは解毒草の煮汁と柔らかな刷毛を持った。

門へ近づくほど、鼻がつんと痛む。白虎神は前脚で顔を擦り、さらに花粉を毛の奥へ押し込んでいた。

「それ以上擦らないで。皮膚まで傷になる」

白虎神が牙を見せる。

ティナは自分の腕へ煮汁を塗り、安全だと示した。それから刷毛を地面へ置き、手を伸ばさず待つ。

長い沈黙のあと、白虎神が顎を地へつけた。

金の瞳は涙で潤み、威厳よりも助けを求めているように見えた。

ティナは煮汁を含ませた布で、鼻先から額へ花粉を拭う。鬣は見た目より密で、赤い粉が何層にも入り込んでいる。

刷毛で毛並みに沿って掻き出すたび、白虎神の呼吸が楽になる。

最後に耳の後ろを洗うと、大きなくしゃみが一つ出た。

突風で衛兵が三人転び、眠り矢だけがまとめて堀へ落ちた。

白虎神は気まずそうに目を逸らす。ティナが笑わずに鼻先をもう一度拭くと、神獣は小さく鼻を鳴らし、それきり吠えなかった。

師匠が最高級の首飾りを捧げる。

白虎神は鼻で脇へ押しやり、ティナの足元へ転がった。縞のある腹をさらし、前脚を曲げる。

「そこも花粉がついたの?」

答えるように尾が一度動く。

腹毛へ指を入れた瞬間、白い縞が光り、同じ模様がティナの手の甲に浮かんだ。神獣契約に周囲が騒然としても、白虎神は低く喉を鳴らすだけだった。

膝へ預けられた頬は大鍋ほど重く、洗いたての鬣は薬草湯の熱をふんわり抱えていた。