百八十四番の封印
王家の宝物庫から、小粒の紅玉が消えていた。
箱は三百。鍵を持つ役人は十二人。毎月の点検では全部開けて数えるため、三日かかる。それでも盗まれた時刻までは分からず、誰も処罰されない。
「下級書記が宝石泥棒を捕まえるつもりか」
財務卿は伊吹を笑った。
伊吹は箱を開けなかった。代わりに、細い紙帯へ連続した番号を印し、箱の留め金をまたぐよう貼った。剥がせば紙が裂け、同じ番号の帯は二つとない。点検簿には、箱番号と封印番号だけを記録した。
一か月後、紅玉の入れ替え日が来た。
役人たちは三百箱を開けようとしたが、伊吹は封印を目で追う。百八十四番だけ、紙の繊維が逆向きに重なっていた。裂けた帯を似た紙で貼り直した跡だ。
箱を開ける。
紅玉が三粒足りない。
封印を貼った日は、宝物庫の出入り記録と同じだった。百八十四番の帯を受け取った役人は一人だけ。袖口から、同じ糊と紙片が見つかった。
点検開始から発見まで十一分。
伊吹は残り二百九十九箱も、封印を目で確認するだけで終えた。切れていない帯は開封されていない。三日かかっていた月例点検は四十六分になり、宝物を空気や手脂にさらす回数も減った。
疑われていた下働き十二人の持ち物検査は中止された。毎月、身分の低い者から裸にされていたが、今回は証拠が一つの箱と一人の役人を指している。古参役人が下働きへ向けていた嘲笑は、衛兵に両腕を取られた瞬間に消えた。
回収された紅玉より先に、下働きたちが伊吹へ深く頭を下げた。
犯人は膝をつき、紅玉を隠した場所を吐いた。三粒とも回収される。十二人を疑い続ける必要も、三日間すべての箱を開ける必要もなくなった。
財務卿は「紙など偽造できる」と言った。
伊吹は未使用の番号帳を開く。百八十四番の控えには、紙の中へ漉き込んだ青糸の位置まで描いてある。貼り直した偽物には、その青糸がなかった。
国王は回収された紅玉を掌で転がし、点検簿の『十一分』を見た。
「宝石より、盗まれたことが分かる仕組みの方が価値がある」
王は伊吹へ宝物庫の金鍵を与えた。
「全保管箱を番号封印へ変えよ。今日からお前が王室保管監査官だ」