百枚目の番号
羽鳥千景が作る小冊子は、次号で終わる予定だった。
二十代の女性に一ページずつ「やめたこと」を書いてもらう自主制作誌。第一号は百部売れた。第六号は二十三部。印刷費を考えれば、続ける理由はない。寄稿者へ原稿料を払えば、千景の手元には一円も残らなかった。最終号のお知らせ文も書いた。
「灯台レコード」の壁に、白い厚紙だけのEPが飾られていた。中央に青いスタンプでバンド名、その下に手書きで「100/100」。最後の一枚らしい。
試聴すると、演奏は上手くなかった。ドラムが走り、二曲目の途中でアンプが唸る。それでもジャケットの内側には、百枚それぞれへ別の一文を書いたとある。千景の盤には〈百枚目まで来てくれてありがとう〉。
「売れたんですね、全部」
店主は古い帳面を開いた。
「九十八枚です」
「これは百枚目では?」
「二枚、本人たちがなくしたそうです」
千景は笑った。百まで番号を振っても、百人へ届くとは限らない。
店主は値札を外し、売上台帳の九十八番目へ日付を書いた。次に、紙袋へ「取扱注意」の印を押す。大量流通品と同じバーコードはない。レシートの商品名も手入力だった。店主はバンド名を一文字間違え、気づいて打ち直した。小さな販売に、余計な手間をかけている。
千景の印刷会社の見積画面には、百部、五十部、三十部の選択肢があった。
百部刷って余らせるか、やめるか。その二択で考えていた。五十部なら利益はほとんどない。それでも、二十三人の次に来る人へは渡せる。
最終号のお知らせ文を削除する。
代わりに特集名を入れた。
〈第七号 続け方を変えたこと〉
部数を五十に変更し、発注する。通し番号は、前号の続きから振ることにした。
店主はEPを渡す前に、「100/100」の数字が擦れないよう薄紙を一枚当てた。千景は受け取り、数字の矛盾をもう一度見た。
百枚目と書かれた九十八枚目の盤だった。
だからこそ千景は、二十四人目がまだ存在しないことを、終了の証拠にしないで済んだ。