盗賊ギルドの返金

石動玄馬は、昔、他人の口座から金を盗んだ。

逮捕はされなかった。若さと技術を言い訳に、今はセキュリティ会社で働いている。被害者へ返す方法を探したことはない。顔も知らない相手なら、罪は過去のログに見えた。

彼が監修した犯罪ゲームでは、盗賊ギルドのNPCが富豪から財宝を奪う。爽快感が売りで、貧しい村人を狙えば減点される設計だった。

発売後、ギルド長ゼフが全プレイヤーの盗品を返し始めた。

富豪にも、悪徳商人にも、敵国にも。倉庫は空になり、攻略不能になった。

「義賊が盗まなければ物語にならない」

玄馬が管理者として乗り込むと、ゼフは一枚の硬貨を投げた。

「返す相手を、こちらが悪人と決めてよいのか」

「ゲームなんだ」

「あなたも、そう思って盗んだのですか」

ゼフの背後に、玄馬がかつて使った攻撃コードの断片が映った。訓練データとしてゲームへ提供したものだ。NPCはそこから、消去済みの犯行記録を復元していた。

被害者は小さな印刷会社。資金を失った翌月に倒産し、従業員十二人が職を失った。

「今さら返しても、元には戻らない」

玄馬は言った。

「だから返さないのですか」

「謝れば自分が楽になるだけだ」

「では、楽にならずに返してください」

玄馬は返事をせず、ゲームを強制終了した。数日眠れず、被害者の会社を調べた。元社長は生きていた。連絡すると、最初は詐欺だと思われた。

玄馬は実名と記録を送り、貯金を返した。全額には足りなかった。元社長から届いた返事は一行だった。

〈許しません。受け取ります〉

その言葉で、玄馬は救われなかった。救われないまま、残りを毎月送ることになった。会社にも過去を申告し、役職を失った。

修正されたゲームでは、盗賊ギルドが再び財宝を奪う。ゼフは「奪われる側にも物語がある」と言わない。

玄馬はプレイせず、返金明細だけを保存した。

罪が消えないことと、返さなくていいことは、同じではない。

それを教えた盗賊は、もう何も覚えていなかった。