相性九十五パーセント
午後十一時五十二分、杏奈の画面に〈相性95%の人が見つかりました〉と表示された。
アプリで答えた百個近い質問をもとにした数字だった。朝食は食べる、連絡は毎日でなくていい、家事は分担したい、旅行は計画を立てる方が好き。杏奈と同じ回答が多い相手らしい。
プロフィールを開くと、穏やかそうな笑顔の男性が写っていた。年齢は一つ上、職場は同じ沿線。自己紹介も丁寧で、休日は本を読んで過ごすとある。最後に〈早寝早起きを心がけています〉と書いてあった。
杏奈はベッドの上で、相手の写真をもう一度見た。あと八分で日付が変わる。今日中に「いいね」を送れば、運がいい日のような気がした。
けれど明日は六時起きだった。朝一番の会議があり、資料を読み直すため、いつもより一本早い電車に乗る。目覚ましはすでに六時に設定したが、布団の横には畳んでいない洗濯物が山になっている。夕飯のカップスープも、マグカップの底で冷えていた。
相性九十五パーセントという数字は、残り五パーセントを考えさせる。会話の速さ、声、匂い、店員への態度。質問に出ないものの方が、会わなければ分からない。そして会う前には、返信を考える夜が始まる。
杏奈は「いいね」のボタンへ親指を置いた。明日の朝に押してもいい。でも相手がその間に誰かとマッチするかもしれない。おすすめから消えるかもしれない。
冷蔵庫からバナナを一本出し、通勤バッグの横へ置いた。水筒もすすぎ、蓋を外して乾かす。戻ると午後十一時五十九分だった。
杏奈はボタンを押さず、スマートフォンを充電器へつないだ。
相性が高いなら、睡眠を削る選択を喜ぶ人ではないかもしれない。そう都合よく考えて、笑った。明日には消えている可能性もある。それなら、九十五パーセントは今夜だけ見た小さな広告だったと思えばいい。
日付が変わり、画面が暗くなった。杏奈は洗濯物の山から明日の靴下だけ抜き出した。今日は恋の可能性より、六時間の睡眠を選んでよかった。