石ころは塀になった
公爵家の侍女だったノエミルは、掃除魔法しか使えないと蔑まれていた。
廊下を磨けば、貴族は汚れた靴で踏み直す。彼女が作った《畑掃き》の箒は、土を残して石だけを集める農具だったが、「箒で国は豊かにならない」と主人ごと辺境へ捨てられた。
新しい畑は、土より石のほうが多く見えた。拳大のものから、爪ほどの礫までびっしり。手で拾えば一日で腰が曲がる。
ノエミルは畑全部を片づけようとせず、玄関から井戸までの一列だけに麻紐を張った。
箒を両手で持つ。
「土はここに。石は、脇へ」
一掃きすると、穂先の間で小石がちりちり鳴った。土粒は落ち、石だけが右へ跳ねる。二掃き目では大きな石がゆっくり転がり、先に集まった石の上へ載った。
ただ山にするのではない。
箒は石の平らな面を見つけ、互い違いに重ねていく。掃くたび、畑の脇へ低い石塀が伸びた。漆喰も魔法接着もないのに、隙間がぴたりと合う。
王都では、掃除は「何も残さない仕事」だった。終わっても床が元に戻るだけで、功績として数えられない。
ここでは違う。取り除いた石が塀として残り、きれいになった土と同時に成果が増える。ノエミルが一歩進むたび、空の道と石の壁が並んで伸びた。
最後の一掃きで、道は黒い土だけになった。石塀は膝の高さで一列を守り、夕日を受けて赤く光る。
ノエミルは大きな平石を一枚選び、焚き火の上へ渡した。川で捕った小魚を載せると、皮がちりちり焼け、脂が石へ落ちて香ばしい煙を上げた。
公爵家からの魔法便が飛んできた。
『舞踏会前、屋敷の清掃が間に合わない。戻れば侍女頭への昇進を検討する』
ノエミルは封を切らず、石塀の一番ぐらつく箇所へ差し込もうとして、やめた。
「紙では弱いわね」
手紙は道具箱へ放り、代わりに適した小石を一つ置く。塀は安定した。
焼けた魚を裏返す。ぱちっと皮が弾ける。
誰かがまた汚す床ではなく、掃くほど実りに近づく土。その違いを噛みしめるように、ノエミルは最初の一口をゆっくり味わった。