神殿裏の失敗祈願
ナギサの結界は、秋祭りの客を神殿へ閉じ込めた。
魔除けの綱を強く張りすぎ、妖だけでなく人も外へ出られなくなったのだ。三百人が境内で夜を明かし、屋台の食べ物は空になり、町長は石段で朝まで怒鳴った。日の出とともに結界は解けたが、祭りは中止になった。境内には踏まれた飾りと空の器が散らばり、賽銭箱の前には弁償を求める札が積まれている。祭神へ供えるはずだった酒まで、寒さをしのぐため客へ配ってしまった。
ナギサは社務所で巫女鈴を箱へしまった。祭主の名札を外し、町長宛ての辞任状へ震える指で印を押す。自分の布団も衣装箱へ詰めた。幼い頃にいた小社でも、祈りを一度間違えた日に養父から門を閉ざされた。今の三人も、閉じ込められた側だ。アキツは夜通し客をなだめ、シグレは損失を書き続け、タマキは三百人へ食べ物を配った。もう顔も見たくないはずだ。三人の履物が見当たらないことを、帰った証拠だと思った。
社務所の鍵を賽銭箱へ置き、裏門から出ようとすると、武人アキツの槍が横たえられていた。彼は石段に座り、傷んだ結界綱を編み直している。
「門番をする。町長が来たら、まず俺が話す」
「私を逃がさないため?」
「戻る門をなくさないためだ」
帳付け役シグレは、空になった屋台の売上帳を社務所へ広げた。損失欄の横に自分の印を押し、ナギサの印を空けてある。
「弁償は三年計画。来年の祭りの利益も入れる」
「来年も任せるつもり?」
「帳簿は未来のことしか書けない」
料理人タマキは、売り切れた屋台鍋を裏庭へ運び、残り米で四人分の粥を炊き始めた。ナギサの履物を竈の近くへ置き、濡れた足袋を乾かす。
「客には謝る。腹が減ったまま謝ると、余計なことを言う」
「結界を張ったのは私。みんなを閉じ込めたのも私。ここに残れば、また迷惑をかける」
三人の手は止まらなかった。
「また、ここから追い出されると思った」
アキツは槍を門柱へ立て、シグレは社務所の座布団を一枚増やし、タマキは四つ目の椀へ粥をよそう。
祭りの提灯はすべて消えていた。
それでも神殿裏の小さな竈だけは、ナギサが帰るまで三人に守られて燃えていた。