私の死は王国より高い

「能力なしの小娘に値札をつけるなら、一銅貨で十分だ」

商王は笑い、香坂千尋の首へ値札を掛けた。

金貨連邦では、罪も罰も競売で決まる。

転移した千尋は市場の計量所で働き、貧民用の麦だけ秤が一割重く設定されていると見抜いた。商王家は差額を十年横領していた。

告発した千尋には「市場価値を乱した罪」がつき、公開競売の後に処刑される。

広場中央には国家最大の天秤。

左皿へ千尋、右皿へ銅貨一枚が置かれた。釣り合えば、彼女の命はその金額で買い取られ、首を落とされる。

商人たちは笑いながら入札札を下げた。

千尋の目に能力が現れる。

《一価定義》

この世の一つの価値を、一度だけ自分で定める。

金を増やす力ではない。

商品の値段を変えても、一時しのぎだ。

千尋は前世で査定士をしていた。価値とは物の中にあるのではなく、失ったとき何を差し出すかで決まる。

商王が執行を命じる。

千尋は能力を使った。

「私の死の価格は、この国が失う真実すべて」

天秤が轟音を上げた。

右皿へ王城の財宝が転移する。金貨、宝石、国債、港の権利証。それでも左皿は動かない。

次に商王家の土地、船団、鉱山の所有札が積まれる。まだ足りない。

最後に連邦旗から金色が抜け、国家信用そのものが巨大な光の塊となって右皿へ落ちた。

それでも千尋の皿がわずかに重かった。

価格表示塔の数字が桁を増やし続ける。

《王国総資産比・一〇二・七%》

塔は警鐘を鳴らし、頂上から崩れた。飛び散った数字が空中で帳簿の形になり、麦の不正計量、飢餓死者数、商王家の利益を全市場へ映し出す。

「馬鹿な! 一人の命だぞ!」

商王が叫ぶ。

千尋は首の値札を外した。そこにはもう一銅貨ではなく、《非売品》と書かれている。

処刑人は斧を置いた。

市場監督たちは自分の印章を裏返す。

そして連邦で最も富む老商会長が、貴賓席から立ち上がった。彼は帽子を取り、千尋へ商取引で最高位の礼をする。

天秤の左皿に立つ彼女を、群衆は安い命として見ていなかった。

国を載せても買えない基準が、初めて市場に現れた瞬間だった。