私の筆圧
自白調書の裏から、私の文字が浮かんだ。
斜光を当てると、《阿多誠は玄関から侵入し》という筆圧痕が読める。十八年前、私――楮原修平が上の紙へ書いた文章だ。
当時の班長、角南晋吾は言った。
「供述が散らかっている。お前が筋を整えろ」
私は別紙に完成形を書いた。角南はそれを阿多の前へ置き、「同じ内容で間違いないなら署名しろ」と迫った。阿多は三日眠っておらず、何度も違うと言った。私は机を叩き、被害者の写真を見せ、最後に彼の手首を押さえた。
調書には《本人が自発的に供述し、自ら署名》と書いた。
その調書で阿多は有罪になった。先週、被害者の爪に残った微量DNAが再鑑定され、阿多を除外した。型は、別事件で服役中の男と一致した。私はそこで初めて、手続が汚れていたのではなく、無実の人間を私の文章で犯人にしたのだと知った。自白を取った功績で得た昇任も、住宅ローンを払った手当も、その文章の上に積まれている。
今日、再審担当から筆圧鑑定の照会が来た。私は回答書に《作成経緯不明》と記せばいい。角南はすでに退職し、県警顧問になっている。電話では穏やかに言った。
『若かったお前一人の責任にはしない。ただし、組織を守る回答を書け』
机の引き出しには、阿多から届いた手紙が七通ある。全部未開封だった。八通目だけ、昨日読んだ。
《あなたの字を、私は今でも書けます。毎日、調書を写させられたからです》
筆圧痕は、私が真実を知った証拠ではない。私が真実を作った証拠だった。
回答書の画面で、私は《不明》を消した。取調べの日付、角南の指示、私が文章を書いた場所、阿多の手を押さえたことを一行ずつ入力する。最後に《虚偽公文書作成および特別公務員暴行の申告》と題名を変えた。
送れば刑事ではいられない。送らなければ、阿多は私の文章の中で犯人のままだ。
私は自分の警察手帳を報告書の横へ置いた。
告発対象者欄へ角南晋吾、そして楮原修平と入力し、電子署名を押した。