空席の持ち主
若松谷晴矢は、誰も座っていない四番席のボタンを押した。
今出川汐里が「そこには人がいない」と叫び、馬込沢京介は晴矢を突き飛ばそうとする。
規則は一つ。
〈終了ベルの瞬間、指定席に不在の一人を犠牲者として選べ。選択が有効なら、参加者を解放する〉
三人には一番から三番の席が割り当てられている。四番席だけが空で、背に〈管理責任者 古賀井七海〉という名札がある。座面の着席灯だけが青く消えていた。空席であることを、装置自身が証明している。
主催者は、誰か一人を椅子から引きずり下ろし、その者を「不在」にして選ばせるつもりだった。京介は汐里のベルトを外そうとし、汐里は必死に座面へしがみついていた。
晴矢は四番席の名札を読んだ。
『管理席はゲーム対象外です』
「規則に指定席の範囲は書いていない。番号も、名札も、着席センサーもある」
古賀井七海は一方鏡の向こうで進行を管理している。四番席は緊急時に室内へ入った彼女が座るためのものだ。つまり席には持ち主がいて、その持ち主はいま不在。
京介が四番ボタンを連打する。
「本当に人間が登録されているなら、俺たち三人とも助かる」
「だから主催者は、空席を背景に見せた」
残り三秒。管理者が遠隔で名札を消そうとする。晴矢は名札を座席の読取口へ押し込み、登録情報を固定した。
ベル。
〈四番指定席。登録者、古賀井七海〉
〈着席反応なし〉
〈不在者一名を確認〉
三人の首輪が緑に変わる。一方鏡の向こうで、古賀井の管理環が赤く点滅した。
汐里は椅子から立ち、震える脚を伸ばした。
「座っていない人を選ぶゲームなのに、私たちは座っている人しか見ていなかった」
晴矢は四番席を見た。
「空席は誰のものでもないように見える。でも名札をつけた瞬間、その人の不在を証明する」
主催者は一席多く用意し、自分が必要なら入れる安全策にした。余分な椅子は、参加者を救う余分な選択肢になった。
三人が出口を通ったあと、四番席だけが正しく空いたまま残った。