空車は低点を乗せない

藤代颯久は出勤時、歩道へ出る前に自動タクシーを呼ぶ。周囲の依頼者の中で最も信用点数が高い者へ、空車が優先して向かう。九一八点の颯久は、待ったことがほとんどない。

姪の杏莉が自転車ではねられた夕方も、車は二十秒で来た。

杏莉は額から血を流し、颯久の上着を握っている。救急通報は混雑し、到着予測は二十五分。病院までは車で七分だった。

扉へ二人の顔が映る。

《乗車グループ平均信用点数:四五九》

《周辺に高信用依頼者を検出》

杏莉は十三歳で、まだ信用点数を持たない。〇点として平均され、颯久の九一八は半分になった。

車の扉が開きかけて止まる。

五十メートル先で、スーツ姿の男性が手を上げた。信用点数六三二。一人なので平均も六三二。

《優先乗客を変更します》

「待て! 怪我人だ!」

颯久が窓を叩く。車は答えた。

『目的ではなく、乗車者の信用点数で配車します』

スーツの男は状況を見て、こちらへ車を譲るよう端末を操作した。だが配車権は譲渡できない。男が辞退すると、次に高い六〇八点の依頼者へ行き先が変わった。

颯久は杏莉を抱え、もう一度一人で配車を申請した。

九一八。扉が開く。

杏莉を乗せようとすると、平均点が再計算され、扉が閉じる。

「おじちゃんだけ行って」

杏莉が息を詰まらせながら言った。

「病院の人、呼んできて」

七分で着き、七分で戻っても遅い。

颯久は路上を走る空車を次々止めようとした。どれも彼一人には扉を開き、杏莉を抱いた途端に去った。

周辺地図には、空車が十七台表示されている。すべて、高得点者が多い駅前へ集まっていく。

杏莉の端末に初めて暫定点数が付いた。

《交通規則違反の疑い》

《暫定信用点数:マイナス二十》

事故の当事者として調査対象になったためだった。

平均点は四四九へ下がる。

ようやく救急車のサイレンが聞こえた。だが渋滞で交差点の向こうから動かない。

颯久の前へ、また一台の空車が止まる。

《藤代颯久さん、お待たせしました》

彼だけなら乗れる。

颯久は扉の前に座り込み、杏莉を抱いた。車は三十秒待ち、乗車意思なしと判定して去った。

料金も座席も十分にある。足りないのは、十三歳の子どもがまだ社会から信用される年齢ではないという一点だけだった。