笑わない仮面
処刑人ハルヴァの白仮面は、拒絶するたび笑みを深くする。
命令された処刑を一度拒めば、仮面の口角が上がり、代わりに着用者の顔から一つ表情が消える。二度目には眉が動かなくなり、三度目には涙を流せなくなる。仮面が満面の笑みになった時、素顔は何も示さない肉の面になる。
今日、祭壇へ載せられたのは九歳のティノだった。竜を鎮める生贄を「処刑」と呼び替え、処刑人に首を落とさせる儀式だ。
「執行せよ」と神官長が命じた。
「拒否する」
一度目。仮面が小さく笑い、ハルヴァの口元から笑う力が消えた。
神官長は別の剣を差し出す。「子供は罪を認めた」
ティノは震えながら頷く。家族を人質に取られている。
「再度、執行せよ」
「拒否する」
二度目。仮面の頬が持ち上がり、ハルヴァの眉が凍る。
祭壇の下で地面が揺れた。竜は血を求めているのではない。神官たちが生贄の魂から魔力を抜くたび、その痛みに怒って暴れている。ハルヴァは過去の処刑で気づいていた。
神官長がティノの母を引きずり出す。
「三度目だ。執行せよ。さもなくば二人とも斬る」
ハルヴァは仮面の奥で目を閉じた。
「拒否する」
涙腺が焼け、視界が乾いた。仮面は楽しげに歯を見せる。
兵が親子へ剣を向ける。ハルヴァは処刑剣で祭壇を断ち割った。中から、過去の子供たちの魂を閉じ込めた水晶が現れる。神官長が術を唱える前に、二度、三度と刃を入れた。
水晶が砕け、無数の光が空へ昇る。地の底から竜の咆哮が響いたが、それは怒りではなく長い息のようだった。揺れが止まる。
群衆が真相を悟り、神官たちを取り囲む。ティノは母へ駆け寄った。
ハルヴァは白仮面を外した。
子供が礼を言おうとして、言葉を失う。彼女の素顔には眉も唇の起伏もなく、涙の出口もない。目だけが残り、乾いたまま親子を見つめていた。
手の中の仮面は、腹を抱えるほど大きく笑っている。
ティノは恐れながらも、彼女の平らな頬へ触れた。
「笑ってるの、こっちじゃないよね」
ハルヴァは答えられなかった。口はあるのに形を作れない。代わりに仮面を地面へ置き、踵で踏み砕いた。
白い破片の一つだけが、彼女の顔にない涙を流した。