粗大ごみの日
七瀬の部屋には、二人掛けのソファだけが残った。
元恋人と半分ずつ払ったが、彼は「置く場所がない」と引き取りを拒んだ。七瀬も、見るたび腹が立つ。
家具が好きな和歌は、張り替えれば使えると言った。
「座りたくない」
「物は裏切ってない」
「その言い方、家具屋だからでしょ」
「まだ三年しか使ってない」
「三年も使った」
同じ年数を見て、二人は反対の結論を出した。
粗大ごみの回収は朝八時。前夜、二人で玄関まで運ぼうとすると、肘掛けが廊下の角につかえた。
「入ったんだから出る」
「引っ越しのときは脚を外した」
「先に言って」
「見れば分かると思った」
和歌は工具箱を開き、七瀬はスマートフォンのライトを照らした。
底の布をめくると、隙間から硬貨とヘアピンと、元恋人がなくしたと言っていた指輪が出てきた。安い銀色のペアリングだった。
七瀬は一瞬、拾ったことを知らせるべきか考えた。
「返す?」
和歌が聞く。
「捨てる」
「金属に分ける」
「今はそういう話じゃない」
「私はずっとそういう話をしてる」
腹が立ったが、七瀬は金属用の小袋へ指輪を入れた。
脚を四本外すと、ソファは廊下を通った。二人で左右を持ち、階段を一段ずつ下ろす。和歌は重心を後ろへと言い、七瀬は指図が多いと返す。それでも「せーの」だけは同時だった。
雨の予報を見た和歌はビニールを掛けようとし、七瀬は回収規則で禁止だと止めた。和歌は渋々外し、代わりに回収券の上から透明テープを貼った。
集積所へ置き、回収券を見える位置に貼る。
部屋へ戻ると、床に四角い跡が残っていた。
和歌は新しい椅子を選ぼうと言い、七瀬は当分いらないと言った。
二人は雑巾を一枚ずつ持ち、ソファのあった床を端から拭いた。埃の線が消えるまで、同じ方向に何度も手を動かした。
作業が終わると、和歌は床へ座ろうとした。
「座布団、出す」
「何もない感じを試したい」
「腰痛くなるよ」
「五分だけ」
二人は少し離れて床に座った。
朝八時、外で回収車の音がした。七瀬は立ち上がり、窓を開けなかった。