終電より早い別れ
益田泉、立花駿、熊谷麻由は、同窓会の二次会を駅構内の居酒屋で始めた。終電まで二時間あるのに、駿は最初からコートを脱がなかった。
高校時代、三人は討論部だった。今夜も注文前から議題が決まった。同窓会では近況報告を三十秒で求められ、三人とも無難な肩書だけを答えた。言えなかった続きを話すために、ここへ来た。
「地元に残るのは前進か、停滞か」
泉が賛成側に座る。彼女は市議会議員で、春の選挙へ二期目の立候補を決めた。再開発で駅前の古い商店を残す公約を掲げる。
駿は反対側だった。東京の商社を休職し、来月から北の町で林業研修に入る。地元にも会社にも戻らない。
麻由は判定役を断った。救急病院の看護師を辞め、訪問看護へ移る予定だった。町には残るが、夜勤のない働き方を選ぶ。
「中立は禁止」と泉。
「昔から、その二択が変なんだよ」と麻由。「残っても離れる人はいるし、出ても縛られる人はいる」
駿が笑った。「判定役が論題を壊した」
壁のモニターでは、同窓会の集合写真が早くも共有されていた。三人は同じ列に立っているのに、肩の間には一人分ずつ隙間があった。
三人は十七歳のころ、正しい答えを言えれば人生も決められると思っていた。泉は故郷を守ると言い、駿は世界へ出ると言い、麻由は人を救うと言った。どれも叶い、どれも言葉どおりではなかった。
一杯目が空く前に、駿が立った。
「終電、まだだよ」と泉。
「早い電車で行く。明日、研修先の面談」
「同窓会くらい最後までいれば?」
駿は少し考えた。「最後までいたら、また戻ってこいって言われるから」
泉は反論を探したが、麻由が首を振った。討論を続ければ勝てても、友人を残せるとは限らない。
駿は二人分の会計まで払い、ホームへ下りた。窓越しに手を上げたが、列車が動く前に座席へ沈んだ。
泉と麻由は二次会を続けなかった。泉は選挙事務所へ、麻由は翌日の訪問先へ向かう。
テーブルには、駿のグラスだけが半分残った。終電案内が何度更新されても、その席に次の客は通されなかった。