縦画面の端で

御厨奏が編集した化粧品の短い広告は、公開直後に差し戻された。依頼は一つ。「縦画面の下で商品名が切れる。今夜の配信枠までに直して」。

元映像は横長で撮られ、中央を切り出して縦のアスペクト比へ合わせていた。編集画面では商品名が全部見える。だが配信サービスでは、下部に説明文と購入ボタンが重なり、最後の二文字が隠れていた。

同じサービスでも、説明文が一行の端末と三行になる端末がある。奏は自分の機種だけで直ったことにせず、最も広く覆われる表示を基準にした。余白を大きく取りすぎれば広告の勢いが死に、狭すぎれば別の端末で再発する。見えない操作画面まで含めて、一本の映像だった。

営業担当は「全体を八割に縮め、上下に余白を作ろう」と言った。奏は試しに縮めた。商品は小さくなり、モデルの指先と瓶の距離も遠くなる。近づきたくなる広告が、売り場の監視映像のようになった。

奏はサービスの表示を画面へ重ね、セーフエリアを作った。すべてを縮めず、商品名が出る三つの場面だけリフレームする。瓶を少し上へ置き、モデルの視線も同じ方向へ残す。顔だけを中央に固定すると、手が下へ消え、何を持っているか分からなくなるため、視線、指先、文字の三点が同時に収まる位置を選んだ。

最後の場面では、瓶を持ち上げる動きの途中で構図を変えると、背景の縦線が揺れて見えた。奏は動きが止まるほんの短い間だけを使い、位置の変更を商品が光る瞬間へ隠した。

営業担当の端末で再生する。購入ボタンが出ても商品名は読め、瓶は小さくなっていない。モデルの指先も画面内に残った。

「配信先ごとに、こんなに違うんですか」

「映像の外側にも、画面があります」

奏は横版を上書きせず、縦版だけを更新した。共通ファイルを直せば、すでに正常な広告まで位置がずれる。

配信枠への登録が終わると、担当表に次の行が灯った。

〈同素材・正方形版。明朝九時〉

奏は縦長の枠を閉じ、今度は四角い枠を画面へ置いた。