縦読みの王冠
王ラゼンの剣が茜屋フミカの盾を割り、金の王冠が黒く脈打った。
《服従王冠》
外すことはできない。
ずっと王を守る。
すべての命令を強制する。
世界が終わるまで。
攻略隊はラゼンを倒せば王冠も消えると信じ、何度も彼のHPを削った。だが致命傷のたび王冠が時間を巻き戻し、王だけを復活させる。
フミカは説明文を見直した。
四行の最初の文字。
外、ず、す、世。
意味がない。
では最後の文字は。
い、る、る、で。
これも違う。
戦闘で王冠へ傷が入るたび、文字が一部欠けていた。欠けずに残った文字だけを縦に拾う。
《は・ず・せ》
王冠自身が、説明文の破損を使って「外せ」と訴えている。
「外すことはできないって書いてある!」
仲間が叫ぶ。
フミカは剣を王ではなく、説明窓に表示された《装備位置:頭》へ向けた。通常、UIは攻撃対象にできない。だが服従王冠は命令を説明文として表示し、その文字を世界へ固定している。
彼女は《頭》の一文字を斬った。
表示が《装備位置:》になる。
装備位置を失った王冠が、ラゼンの頭から滑り落ちた。
王は剣を止め、膝をつく。
「私は何人、殺した」
「覚えてるの?」
「全部」
命令されていたから無罪だとは、彼自身も言わない。フミカは王冠を拾わず、説明窓を閉じる。
地面の王冠には、新しい文が浮かんだ。
《装備者なし。命令対象なし》
攻略隊は勝利報酬を失った。代わりに、王の記憶から王冠を作った管理者の場所が開示される。
《王ラゼン討伐:中止》
《服従王冠の装備位置を未定義化》
ラゼンは管理者の場所を案内する前に、命令下で殺した者の一覧を開いた。王冠が強制した行動でも、被害者にとって傷は同じだと言う。
フミカは一覧を閉じさせない。責任を一人で背負って自死することも、王冠の次の命令になり得るからだ。
地面の王冠は《はずせ》の文字を消し、今度は《こわせ》と並べようとした。フミカは誰にも触れさせず、装備位置のないまま封印する。
道具自身の救難信号が、必ず正しい命令とは限らない。読む側には、解除した後の判断まで残る。
《隠し仕様を公開――説明文は王冠の命令書であると同時に、文字を傷つけられた装備自身が残した解除手順でした》