職員室の黄色い点
放課後の職員会議で、露木教頭は非常勤講師の亘理澄香の机を廊下へ出させた。
「保護者から苦情が三通来た。授業をせず、生徒に自習をさせているそうだ」
教頭は匿名の苦情文を配り、澄香の教材をゴミ袋へ放り込む。彼は毎朝、彼女だけに校門掃除を命じ、職員用の湯を使えば〈非正規が先に飲むな〉とカップを捨てていた。
「苦情の内容を確認させてください」
「非常勤に説明する義務はない。明日から来なくていい」
露木は教育委員会宛ての契約終了申請へ署名し、匿名文書を証拠として添えた。
その場に、授業監察で訪れていた教育委員がいた。
「この苦情文は、学校の複合機で印刷されていますね」
「保護者がデータで送ったものを、私が出しただけです」
露木は即答した。
教育委員が小型の青い灯を紙へ当てる。白い余白に、黄色い点の列が浮かんだ。公立校の複合機は、文書流出を防ぐため、印刷者ID、端末、時刻を目に見えない点で記録する。
三通すべて、露木教頭の端末から、昨夜十一時に印刷されていた。
さらに元データの作成者も露木。ファイル名は〈亘理追放用・苦情A〉〈同B〉〈同C〉だった。
「保護者の話をまとめただけだ」
「では、送信元の記録は?」
一件もなかった。代わりに、露木が自分の端末へ入力した下書きが復元される。
〈教材を捨てる。机を廊下へ。泣けば自己都合扱い〉
教頭が紙を奪って破った。しかし黄色い点は一片ごとに残り、教育委員の端末にはすでに複写されている。
職員室の後方で、生徒会長が手を挙げた。澄香の授業記録を教育委員へ提出するため、会議への同席を許されていた。
生徒用端末には毎時間の課題と解説動画が残り、自習どころか、欠席者まで学べるよう整えられていた。授業評価は学年首位だった。
露木が怒鳴る。
「生徒が職員会議に口を出すな!」
「今の発言も監察記録へ入ります」
教育委員は契約終了申請を澄香へ返し、代わりに教頭処分書を校長へ渡した。
校長は露木の前で、教育委員会の決定を読み上げた。
「露木昭彦。虚偽文書作成、契約妨害および継続的ハラスメントにより、懲戒免職とする」