背丈を選ばない作業台
職人都市の古道具店〈低い天井〉は、店主フィオラが小人族であることを理由に、子どもの玩具屋と間違われていた。
実際には、棚に並ぶ工具の半分が王宮工房より古い。価値を知らない職人ほど、入口で笑って帰った。
若いゴブリン錠前師キュロが、試験課題の鉄板を抱えて現れた。
「明日の組合試験を受けさせてもらえない」
受験資格はある。だが試験場の作業台は人間の腰高に固定され、背の低いキュロでは刃先が見えない。踏み台の使用を願うと、試験官は「職人なら道具に体を合わせろ」と退けた。
「背を伸ばす靴は?」
「転べば指を失います」
フィオラは店の隅に畳んであった小さな作業台を広げた。
「これは使い手の背丈ではなく、作ろうとする物に合わせます」
キュロが鉄板を置くと、四本脚が音もなく縮み、天板が彼の肘より指二本低い位置で止まった。工具掛けも左右へ動き、利き手の届く範囲に収まる。
試しに鍵を削る。いつもは台の縁に胸を押しつけていたが、今日は刃の角度が全部見えた。細い溝が一度で通り、錠前は鳥の声のように軽く開いた。
「台が仕事をしているだけだと言われる」
「高すぎる台も、今まで人間のために仕事をしていました。公平とは、誰にも道具を使わせないことではありません」
フィオラは試験場へ持ち込めるよう、台を鞄ほどの大きさに畳んだ。
翌日、キュロは金色の組合章をつけて戻った。
課題は、百年開かなかった宝物庫の錠前。彼は最短記録で解き、踏み台を拒んだ試験官の記録を半分に縮めたという。
「最後に、台を使ったから無効だと言われた」
「それで?」
「試験規則を読んだ。持ち込み工具は一つまで許可される。俺は作業台を一つ持ち込んだだけだ」
彼は歯を見せて笑い、値札どおりの金貨を置いた。
「来月から試験台の高さも選べることになった。俺だけ勝って終わりじゃない」
作業台を小脇に抱えた錠前師が堂々と大通りへ出る。
フィオラが玩具屋と書かれた落書きを削り切ると、二度目のドアベルが鳴った。