花嫁席へ届いた旅程表

挙式直前、蒼吾は控室へ紬希を呼びつけた。

「今日の婚礼は予定通り行う。ただし新婚旅行には絵梨佳を連れていく。おまえとは帰国後に離婚だ」

ウェディングプランナーの絵梨佳が、花嫁のために用意された真珠の髪飾りを着けていた。二人は半年前から関係を持ち、式の費用を紬希の口座へ請求しながら、同じホテルに別室を取っていたという。礼拝堂ではすでに音楽が始まり、百人の参列者が花嫁を待っている。その時間さえ盾にして、蒼吾は「今さら中止できるはずがない」と笑った。

「騒げばキャンセル料は全部おまえの負担になる。親にも恥をかかせるぞ」

蒼吾は署名済みの婚礼契約を見せた。浮気を疑って式を中止した側が全額支払う、と説明する。

紬希は泣かなかった。

「旅程表を確認させてください」

絵梨佳は鼻で笑い、式場の共有端末を開いた。そこには正規の新婚旅行とは別に、《特別同行者プラン》が登録されている。申込者は蒼吾、同行者は絵梨佳。関係欄には《交際相手》と記され、二人のパスポート署名まで添付されていた。

「仕事上の手配よ」

「では、この備考は?」

《花嫁には式当日まで秘密。挙式後、資金口座を二人の旅行へ振り替える》

入力者は絵梨佳。承認者は蒼吾だった。

二人が画面を閉じようとした瞬間、プリンターから追加書類が吐き出された。プランナーが旅程を開くと、監査用控えが自動印刷される仕組みだった。式場の金を扱う者の不正を防ぐため、絵梨佳自身が新人研修で何度も説明していた規則である。

紬希は婚礼契約の裏面を開いた。そこには《婚礼関係者と不貞を行った契約者、および資金を私的流用した担当者が全損害を負う》とある。蒼吾が「花嫁の浮気対策だ」と言って追加し、二人とも署名していた。

紬希はベールを外し、扉を開けた。外で待っていたのは参列者ではなく、式場の法務責任者だった。

責任者が旅程表と署名を照合し、決定書を開く。

「新郎・蒼吾への全額負担請求、および担当者・絵梨佳への懲戒解雇通知を読み上げます」