花輪を抜けた白箱

雨の葬列が斎場を出て三十分後、封印された霊柩車の棺脇に白い小包が現れた。出発時、遺族と係員が車内を確認し、箱はなかった。後部扉の封印帯は無傷で、運転席と棺室の間には固定壁がある。小包には、故人が隠した新しい遺言書が入っていた。

疑われたのは葬祭主任の花岡、生花店主の竹中、故人の甥の細流。花岡は相続争いを避けたく、竹中は故人から借金をし、細流は旧遺言の唯一の相続人だった。三人とも新しい遺言を隠す理由と、後から「故人の最後の便」として出す理由を持つ。霊柩車は途中で一度も停車せず、急坂を下った後に運転手が異音を聞いているが、棺室の内部までは見えなかった。

刑事の刑部が残した手掛かりは三つだった。小包の白いリボンは、雨に当たっていないのに内側まで水を吸っている。箱の角には、生花を固定する緑色の吸水フォームの粉が付いている。そして棺の頭側に飾られた大花輪は、出荷記録より六百二十グラム軽く、その差は小包の重さと一致した。

花岡は出発前に花輪も確認したと言い、細流は棺の二重底を疑った。竹中は水を吸った花材は走行中に軽くなると説明したが、三十分で六百グラムもの水が消えることはない。しかも重量差は、小包が車内へ落ちた後に量った値だった。花岡は花輪を飾る位置を決めただけで内部を加工していない。細流は出発前、棺室へ近づくことを遺族に止められていた。フォームを切り、重さを記録できたのは竹中だけだった。

霊柩車の花輪は棺室上部の格子へ差し込み、吸水フォームで固定する。竹中はフォーム中央をくり抜いて小包を隠し、浅く戻した。坂道と車体の振動で支えが崩れれば、箱は格子を抜けて棺脇へ落ちる。

「濡れたリボンは吸水フォームの中にあったため、緑の粉は隠し場所、六百二十グラムの不足は花輪から抜けた荷物そのものです。竹中さんは扉を開けず、出発前に配達を終えていた。車が走る揺れを合図に、花輪が箱を手放したのです。葬列の途中で届いたように見えたのは、送り主ではなく、隠し場所が崩れた時刻を到着時刻と誤認したからでした。雨も封印も仕掛けには関係ありません。それらは誰かが車外から投げ込んだ可能性を消すだけです。箱は最初から葬列に参加し、花輪という姿をやめた時に、初めて荷物として目撃されたのです」